ヨハネの福音書
どこから読めばいいか迷ったら、まずはヨハネの福音書から。イエスさまがどんな方で、何を語り、何をなさったのかが、目撃者の目線でまっすぐに書かれています。「初めに言葉があった」という一行から始まり、十字架と、からになった墓と、よみがえったイエスさまとの朝ごはんまで。昔から「最初に読む一冊」として勧められてきた理由が、読めばきっとわかります。
書いた本人も、目的をはっきり言っています。「これらのことが記されたのは、イエスがキリスト、神の子であるとあなたがたが信じ、信じることによってイエスの名にあって命を得るためである」(20章31節)。一日一章、21日で読み切れます。
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読んでいて「ここ、どういう意味?」と思ったら、無料で使えるこちらのガイドを。
- ハーベスト・タイム「ヨハネの福音書(1)-前書き-」(中川健一) — 1章1〜18節の講解。「初めにことばがあった」の「ことば」が誰を指すのかを、アウトラインつきで解説。
- ハーベスト・タイム「ヨハネの福音書」講解シリーズ — 中川健一による全62回の通し講解。メッセージステーションで無料公開されている音声とアウトライン。
- 聖書プロジェクト(BibleProject)「ヨハネの福音書1-12章【概観】」 — 1〜12章の流れを描いたアニメーション動画。冒頭の「ことば」の詩から解説。
- 聖書プロジェクト(BibleProject)「ヨハネの福音書13-21章【概観】」 — 最後の晩餐から十字架、復活までをまとめた動画(約9分)。
- ロゴス・ミニストリー「ヨハネ1章」 — 1章の聖書の学び。ギリシア語「ロゴス(ことば)」の意味を、わかりやすく解説。
本文は現代語の「フリーダム・バイブル」(草案)です。1910年のカトリック訳(ラゲ訳、明治の文語体)にも切り替えられます。
第1章
1初めに言葉があった。言葉は神とともにあり、言葉は神であった。 2この方は初めに神とともにおられた。 3すべてのものはこの方を通して造られた。造られたもののうち、この方によらずに造られたものは一つもなかった。 4この方のうちに命があり、その命は人々の光であった。 5光は闇の中に輝いている。闇は光に打ち勝たなかった。 6神から遣わされた一人の人が現れた。その名はヨハネであった。 7彼は証人として来た。光についてあかしし、彼を通してすべての人が信じるためであった。 8彼は光ではなかった。光についてあかしするために遣わされたのである。 9すべての人を照らすまことの光が、世に来ようとしていた。 10この方は世におられ、世はこの方を通して造られたのに、世はこの方を認めなかった。 11この方はご自分のところに来られたが、ご自分の民は受け入れなかった。 12しかし、この方を受け入れたすべての人、すなわちその名を信じる人々には、神の子どもとなる権利を与えられた。 13彼らは血によらず、肉の意志によらず、人の意志によらず、神によって生まれたのである。 14言葉は肉となり、われわれの間に住まわれた。われわれはその栄光を見た。それは、恵みと真理に満ちた、父のひとり子としての栄光であった。 15ヨハネはこの方についてあかしし、声を上げて言った。「『私の後から来られる方は、私より先におられたので、私より優れた方である』と私が言ったのは、この方のことである。」 16われわれは皆、この方の満ちあふれる豊かさから、恵みの上にさらに恵みを受けた。 17律法はモーセを通して与えられた。恵みと真理はイエス・キリストを通して実現した。 18いまだかつて神を見た者はいない。父の懐におられるひとり子、この方が神を明らかにされたのである。 19さて、ユダヤ人たちがエルサレムから祭司とレビ人を遣わして、「あなたはだれですか」と尋ねさせた時、ヨハネはこうあかしした。 20彼は隠さず、はっきりと「私はキリストではない」と告白した。 21彼らは尋ねた。「では、何ですか。あなたはエリヤですか。」彼は「違う」と答えた。「あの預言者ですか。」彼は「そうではない」と答えた。 22そこで彼らは言った。「あなたはだれなのですか。私たちを遣わした人々に答えを持ち帰らせてください。あなたは自分を何者だと言うのですか。」 23彼は言った。「私は、預言者イザヤが言ったように、『荒野で叫ぶ者の声、主の道をまっすぐにせよ』という者である。」 24遣わされた者たちはパリサイ人であった。 25彼らはヨハネに尋ねた。「あなたがキリストでもエリヤでもあの預言者でもないなら、なぜバプテスマを授けるのですか。」 26ヨハネは答えた。「私は水でバプテスマを授けている。しかし、あなたがたの中に、あなたがたの知らない方が立っておられる。 27その方は私の後から来られるが、私より先におられたので、私にまさる方である。私はその方の履物のひもを解く資格さえない。」 28これは、ヨハネがバプテスマを授けていた、ヨルダン川の向こう側のベタニアで起こった。 29翌日、ヨハネはイエスが自分の方へ来られるのを見て言った。「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ。 30『私の後から一人の方が来られる。その方は私より先におられたので、私にまさる方である』と私が言ったのは、この方のことである。 31私もこの方を知らなかった。しかし、この方がイスラエルに現されるために、私は水でバプテスマを授けに来たのである。」 32ヨハネはさらにこうあかしした。「私は、聖霊が鳩のように天から降り、この方の上にとどまるのを見た。 33私もこの方を知らなかった。しかし、水でバプテスマを授けるように私を遣わされた方が、『聖霊が降って、ある人の上にとどまるのを見たなら、その人こそ聖霊によってバプテスマを授ける者である』と私に言われた。 34私はそれを見た。そして、この方が神の子であるとあかししている。」 35その翌日、ヨハネはまた二人の弟子とともに立っていた。 36そして歩いておられるイエスを見つめて、「見よ、神の小羊だ」と言った。 37二人の弟子はその言葉を聞いて、イエスについて行った。 38イエスは振り向き、彼らがついて来るのを見て、「何を求めているのですか」と言われた。彼らは「ラビ(訳すと『先生』)、どこに泊まっておられるのですか」と尋ねた。 39イエスは「来て、見なさい」と言われた。そこで彼らは行って、イエスが泊まっておられる所を見、その日はイエスとともに過ごした。時刻は第十時ごろであった。 40ヨハネの言葉を聞いてイエスについて行った二人のうちの一人は、シモン・ペテロの兄弟アンデレであった。 41彼はまず自分の兄弟シモンを見つけ、「私たちはメシアを見つけた」と言った。メシアとは、訳すとキリストである。 42そしてシモンをイエスのもとに連れて来た。イエスは彼を見つめて、「あなたはヨナの子シモンです。あなたはケファと呼ばれるでしょう」と言われた。ケファとは、訳すとペテロである。 43翌日、イエスはガリラヤへ出て行こうと決め、フィリポを見つけて、「私に従いなさい」と言われた。 44フィリポは、アンデレとペテロの町ベツサイダの出身であった。 45フィリポはナタナエルを見つけて言った。「モーセが律法に書き、預言者たちも書いた方を私たちは見つけた。ヨセフの子、ナザレのイエスだ。」 46ナタナエルは彼に言った。「ナザレから何か良いものが出るだろうか。」フィリポは「来て、見なさい」と言った。 47イエスはナタナエルがご自分の方へ来るのを見て、彼について「見よ、まことのイスラエル人だ。この人には偽りがない」と言われた。 48ナタナエルは「どうして私をご存じなのですか」と尋ねた。イエスは「フィリポがあなたを呼ぶ前、あなたがいちじくの木の下にいた時、私はあなたを見ました」と答えられた。 49ナタナエルは答えた。「ラビ、あなたは神の子です。あなたはイスラエルの王です。」 50イエスは彼に答えられた。「あなたがいちじくの木の下にいるのを見たと言ったので、信じるのですか。あなたはこれよりも大きなことを見るでしょう。」 51また言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。これからあなたがたは、天が開け、神の御使いたちが人の子の上を上り下りするのを見るでしょう。」
第2章
1三日目、ガリラヤのカナで婚礼があり、イエスの母もそこにいた。 2イエスも弟子たちとともに婚礼に招かれていた。 3ぶどう酒がなくなった時、イエスの母は「ぶどう酒がありません」と言った。 4イエスは母に言われた。「婦人よ、それはあなたと私に何の関わりがありますか。私の時はまだ来ていません。」 5母は召使いたちに、「この方が言うことは何でもしてください」と言った。 6そこには、ユダヤ人の清めの習慣のために、二、三メトレテスずつ入る石の水がめが六つ置かれていた。 7イエスが彼らに「水がめを水で満たしなさい」と言われると、彼らは縁までいっぱいにした。 8イエスは「さあ、くんで、宴会の世話役のところへ持って行きなさい」と言われた。そこで彼らは持って行った。 9宴会の世話役は、ぶどう酒になった水を味わったが、それがどこから来たのか知らなかった。しかし、水をくんだ召使いたちは知っていた。そこで世話役は花婿を呼び、 10言った。「だれでも初めに良いぶどう酒を出し、客が十分飲んだころに質の劣るものを出します。それなのに、あなたは良いぶどう酒を今まで取っておきました。」 11イエスはガリラヤのカナでこの最初のしるしを行い、ご自分の栄光を現された。弟子たちはイエスを信じた。 12この後、イエスは母、兄弟たち、弟子たちとともにカペナウムへ下り、そこに数日滞在された。 13ユダヤ人の過越祭が近づいたので、イエスはエルサレムへ上られた。 14そして神殿で、牛、羊、鳩を売る者たちや、座っている両替人たちをご覧になった。 15イエスは縄でむちを作り、羊も牛もすべて神殿から追い出された。また両替人の金をまき散らし、その台を倒された。 16鳩を売る者たちには、「これらをここから運び出しなさい。私の父の家を市場にしてはなりません」と言われた。 17弟子たちは、「あなたの家を思う熱心が私を食い尽くす」と書かれていることを思い出した。 18そこでユダヤ人たちはイエスに言った。「こうしたことをするからには、私たちにどんなしるしを見せるのですか。」 19イエスは答えられた。「この神殿を壊しなさい。私は三日でこれを建て直します。」 20ユダヤ人たちは言った。「この神殿を建てるのに四十六年かかりました。それを三日で起こすのですか。」 21しかし、イエスはご自分の体という神殿について語っておられたのである。 22それで、イエスが死者の中からよみがえられた時、弟子たちはイエスがこう言われたことを思い出し、聖書とイエスの言葉を信じた。 23イエスが過越祭の祝いの間エルサレムにおられた時、多くの人が、その行われたしるしを見て、イエスの名を信じた。 24しかし、イエスはご自分を彼らにお任せにならなかった。すべての人を知っておられ、 25人についてだれかにあかししてもらう必要はなかった。イエスご自身、人の内に何があるかを知っておられたからである。
第3章
1さて、パリサイ人の中にニコデモという人がいた。ユダヤ人の指導者であった。 2この人が夜、イエスのもとに来て言った。「ラビ、私たちは、あなたが神から来られた教師であることを知っています。神がともにおられなければ、あなたが行っておられるようなしるしを行える者はいないからです。」 3イエスは答えられた。「まことに、まことに、あなたに告げます。人は新しく生まれなければ、神の国を見ることはできません。」 4ニコデモは言った。「人は年を取ってから、どうして生まれることができるでしょう。もう一度母の胎内に入って生まれることができるでしょうか。」 5イエスは答えられた。「まことに、まことに、あなたに告げます。人は水と霊から生まれなければ、神の国に入ることはできません。 6肉から生まれるものは肉であり、霊から生まれるものは霊です。 7『あなたがたは新しく生まれなければならない』と私が言ったことを、不思議に思ってはなりません。 8風は思いのままに吹きます。あなたはその音を聞いても、どこから来てどこへ行くのか知りません。霊から生まれる者も皆、そのようです。」 9ニコデモは「どうしてそのようなことがあり得るのですか」と尋ねた。 10イエスは答えられた。「あなたはイスラエルの教師なのに、これらのことが分からないのですか。 11まことに、まことに、あなたに告げます。われわれは知っていることを語り、見たことをあかししているのに、あなたがたはわれわれのあかしを受け入れません。 12私が地上のことを話してもあなたがたが信じないなら、天上のことを話した時、どうして信じるでしょう。 13天から下って来た者、すなわち天にいる人の子のほかには、だれも天に上ったことはありません。 14モーセが荒野で蛇を上げたように、人の子も上げられなければなりません。 15それは、この方を信じる者がだれも滅びることなく、永遠の命を持つためです。 16神は世をこれほどまでに愛し、そのひとり子をお与えになりました。それは、この方を信じる者がだれも滅びることなく、永遠の命を持つためです。 17神が御子を世に遣わされたのは、世を裁くためではなく、御子を通して世が救われるためです。 18御子を信じる者は裁かれません。信じない者はすでに裁かれています。神のひとり子の名を信じていないからです。 19その裁きとは、光が世に来たのに、人々が光よりも闇を愛したということです。彼らの行いが悪かったからです。 20悪を行う者は皆、光を憎み、自分の行いが明るみに出されないように、光のもとへ来ません。 21しかし、真理を行う者は、自分の行いが神にあってなされたことが明らかになるように、光のもとへ来ます。」 22この後、イエスは弟子たちとユダヤ地方へ行き、彼らとともにそこに滞在して、バプテスマを授けておられた。 23ヨハネもサリムに近いアイノンでバプテスマを授けていた。そこには水が豊かにあったからである。人々は来てバプテスマを受けた。 24ヨハネはまだ投獄されていなかった。 25ところが、ヨハネの弟子たちとあるユダヤ人たちとの間で、清めについての議論が起こった。 26彼らはヨハネのもとに来て言った。「ラビ、見よ、ヨルダン川の向こうであなたと一緒にいて、あなたがあかしされた方が、バプテスマを授けています。皆がその方のところへ行っています。」 27ヨハネは答えた。「人は、天から与えられなければ、何も受けることができない。 28『私はキリストではなく、その方より先に遣わされた者である』と私が言ったことについて、あなたがた自身が私の証人である。 29花嫁を持つ者が花婿である。花婿の友人はそばに立ってその声を聞き、花婿の声を聞いて大いに喜ぶ。こうして、私の喜びは満ちた。 30あの方はますます栄え、私は衰えなければならない。 31上から来る方はすべてのものの上におられる。地から出た者は地に属し、地のことを語る。天から来る方はすべてのものの上におられる。 32この方は見聞きしたことをあかしされるが、だれもそのあかしを受け入れない。 33そのあかしを受け入れた者は、神が真実であることに、自ら証印を押したのである。 34神が遣わされた方は神の言葉を語られる。神は限りなく聖霊をお与えになるからである。 35父は御子を愛し、すべてのものをその手に委ねられた。 36御子を信じる者には永遠の命がある。しかし、御子に従わない者は命を見ることがなく、神の怒りがその上にとどまる。」
第4章
1さて、イエスがヨハネよりも多くの弟子を作り、バプテスマを授けておられるとパリサイ人たちが聞いたことを、主が知った時、 2(実際には、イエスご自身ではなく、弟子たちがバプテスマを授けていたのだが、) 3イエスはユダヤを去り、再びガリラヤへ向かわれた。 4イエスはサマリアを通らなければならなかった。 5こうしてイエスは、スカルというサマリアの町に来られた。そこはヤコブが息子ヨセフに与えた土地の近くであった。 6そこにはヤコブの井戸があった。旅に疲れたイエスは、そのまま井戸のそばに腰を下ろされた。第六時ごろであった。 7一人のサマリア人の女が水をくみに来た。イエスは彼女に「水を飲ませてください」と言われた。 8弟子たちは食物を買うために町へ出かけていた。 9そこでサマリア人の女は言った。「あなたはユダヤ人なのに、どうしてサマリア人の女である私に、飲ませてくれと頼むのですか。」ユダヤ人はサマリア人と交際しないからである。 10イエスは答えられた。「もしあなたが神の賜物を知り、また『水を飲ませてください』と言っているのがだれかを知っていたなら、あなたの方からその人に求め、その人はあなたに生ける水を与えたでしょう。」 11女は言った。「先生、あなたはくむ物を持っておらず、井戸は深いのです。その生ける水をどこから手に入れるのですか。 12あなたは、私たちにこの井戸を与え、自分も、子どもたちも、家畜も、この井戸から飲んだ父祖ヤコブより偉いのですか。」 13イエスは答えられた。「この水を飲む者は皆、また渇きます。 14しかし、私が与える水を飲む者は、決して再び渇きません。私が与える水は、その人の中で、永遠の命へと湧き上がる水の泉となります。」 15女は言った。「先生、私が渇くことも、ここまで水をくみに来ることもないように、その水をください。」 16イエスは「行って、あなたの夫を呼び、ここへ戻って来なさい」と言われた。 17女は「私には夫がいません」と答えた。イエスは言われた。「『夫はいません』とは、よく言いました。 18あなたには五人の夫がいました。そして今一緒にいる人は、あなたの夫ではありません。あなたの言ったことは本当です。」 19女は言った。「先生、あなたは預言者だとお見受けします。 20私たちの先祖はこの山で礼拝しましたが、あなたがたユダヤ人は、礼拝すべき場所はエルサレムにあると言っています。」 21イエスは言われた。「婦人よ、私を信じなさい。この山でもエルサレムでもなく、あなたがたが父を礼拝する時が来ます。 22あなたがたは知らないものを礼拝しています。私たちは知っているものを礼拝しています。救いはユダヤ人から来るからです。 23しかし、まことの礼拝者たちが、霊と真理によって父を礼拝する時が来ます。今がその時です。父はそのような人々を、ご自分を礼拝する者として求めておられるからです。 24神は霊です。神を礼拝する者は、霊と真理によって礼拝しなければなりません。」 25女は言った。「キリストと呼ばれるメシアが来られることは知っています。その方が来られれば、すべてのことを私たちに明らかにしてくださるでしょう。」 26イエスは彼女に「あなたと話している私が、その者です」と言われた。 27ちょうどその時、弟子たちが戻って来た。彼らはイエスが女と話しておられることに驚いた。しかし、「何を求めておられるのですか」とも、「なぜ彼女と話しておられるのですか」とも尋ねる者はいなかった。 28そこで女は水がめを置いたまま町へ行き、人々に言った。 29「来て、見てください。私がしたことを何もかも言い当てた人がいます。この人がキリストなのでしょうか。」 30人々は町を出て、イエスのもとへ向かった。 31その間、弟子たちは「ラビ、食べてください」と勧めた。 32しかし、イエスは「私には、あなたがたの知らない食物があります」と言われた。 33そこで弟子たちは互いに、「だれかが食べ物を持って来たのだろうか」と言った。 34イエスは言われた。「私の食物は、私を遣わされた方の御心を行い、その働きを成し遂げることです。 35あなたがたは、『刈り入れまでまだ四か月ある』と言っているではありませんか。見よ、あなたがたに言います。目を上げて畑を見なさい。すでに白くなり、刈り入れを待っています。 36刈る者は報酬を受け、永遠の命に至る実を集めています。それは、まく者と刈る者がともに喜ぶためです。 37このことで、『一人がまき、別の者が刈る』という言葉は真実です。 38私は、あなたがたが労苦しなかったものを刈るために、あなたがたを遣わしました。ほかの人々が労苦し、あなたがたはその労苦に加わったのです。」 39その町の多くのサマリア人が、「私がしたことを何もかも言い当てました」とあかしした女の言葉によって、イエスを信じた。 40そこでサマリア人たちはイエスのもとに来ると、自分たちのところに滞在してくださるよう願った。イエスはそこに二日滞在された。 41そして、さらに多くの人がイエスの言葉によって信じた。 42彼らは女に言った。「今、私たちが信じるのは、あなたの話によるのではありません。自分たちで聞いて、この方が本当にキリスト、世の救い主であることが分かったからです。」 43二日の後、イエスはそこを出てガリラヤへ行かれた。 44イエスご自身、預言者は故郷では尊ばれないとあかししておられた。 45それでもガリラヤに着くと、ガリラヤの人々はイエスを迎えた。彼らも祭りに行っていて、イエスが祭りの間にエルサレムで行われたすべてのことを見ていたからである。 46こうしてイエスは再び、以前水をぶどう酒に変えたガリラヤのカナに来られた。さて、カペナウムに息子が病気である一人の王室の役人がいた。 47この人は、イエスがユダヤからガリラヤへ来られたと聞いて、イエスのもとへ行き、下って来て息子を癒やしてくださるよう願った。息子が死にかかっていたからである。 48そこでイエスは彼に言われた。「あなたがたは、しるしと不思議を見なければ、決して信じません。」 49王室の役人は「先生、子どもが死なないうちに下って来てください」と言った。 50イエスは「帰りなさい。あなたの息子は生きています」と言われた。その人はイエスが語られた言葉を信じ、帰って行った。 51彼が下って行く途中、召使いたちが迎えに来て、「お子さんは生きています」と知らせた。 52そこで彼は、息子が良くなり始めた時刻を尋ねた。彼らは「昨日、第七時に熱が引きました」と答えた。 53父親は、それがイエスに「あなたの息子は生きています」と言われた時刻であったと分かった。そして彼も、その家の者も皆、信じた。 54これは、イエスがユダヤからガリラヤに来て行われた、二番目のしるしである。
第5章
1これらのことの後、ユダヤ人の祭りがあり、イエスはエルサレムへ上られた。 2エルサレムの羊の門のそばに、ヘブル語で「ベテスダ」と呼ばれる池があり、五つの回廊があった。 3その回廊には、病人、目の見えない人、足の不自由な人、体の麻痺した人が大勢横たわり、水が動くのを待っていた。 4それは、ある時になると御使いが池に降りて水をかき動かし、水が動いた後、最初に入った者は、どんな病気にかかっていても癒やされたからである。 5そこに、三十八年間病気に苦しんでいる人がいた。 6イエスはその人が横たわっているのを見て、すでに長い間病んでいることを知り、「治りたいですか」と尋ねられた。 7病人は答えた。「先生、水がかき動かされた時、私を池に入れてくれる人がいません。私が行こうとしている間に、ほかの人が先に入ってしまうのです。」 8イエスは彼に「起き上がり、敷物を取り上げて歩きなさい」と言われた。 9すると、その人はすぐに良くなり、敷物を取り上げて歩き始めた。その日は安息日であった。 10そこでユダヤ人たちは、癒やされた人に言った。「今日は安息日だ。敷物を運ぶことは律法で許されていない。」 11彼は答えた。「私を良くしてくださった方が、『敷物を取り上げて歩きなさい』と言われたのです。」 12彼らは尋ねた。「あなたに『敷物を取り上げて歩きなさい』と言ったのは、だれだ。」 13しかし、癒やされた人は、それがだれか知らなかった。その場所には群衆がいて、イエスは人々の間から立ち去っておられたからである。 14その後、イエスは宮で彼を見つけて言われた。「見なさい。あなたはもう治りました。これからは罪を犯してはなりません。さもないと、もっと悪いことがあなたの身に起こるでしょう。」 15その人は立ち去り、自分を良くしてくださったのはイエスだとユダヤ人たちに告げた。 16そのためユダヤ人たちはイエスを迫害し、殺そうとした。イエスが安息日にこのようなことを行われたからである。 17しかし、イエスは彼らに答えられた。「私の父は今も働いておられます。ですから、私も働いています。」 18このためユダヤ人たちは、ますますイエスを殺そうとした。イエスが安息日を破っただけでなく、神をご自分の父と呼び、ご自分を神と等しい者とされたからである。 19そこでイエスは彼らに答えられた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。御子は自分からは何もできず、ただ父がなさるのを見るとおりに行います。父がなさることは何でも、御子も同じように行うからです。 20父は御子を愛し、ご自分がなさるすべてのことを御子に示されます。そして、あなたがたが驚くように、これらよりもさらに大きな業を御子に示されます。 21父が死者をよみがえらせて命を与えられるように、御子もまた、ご自分が望む者に命を与えます。 22父はだれをも裁かず、すべての裁きを御子に委ねられました。 23それは、すべての人が父を敬うのと同じように、御子をも敬うためです。御子を敬わない者は、御子を遣わされた父をも敬っていません。 24まことに、まことに、あなたがたに告げます。私の言葉を聞いて、私を遣わされた方を信じる者には永遠の命があり、裁きを受けることがなく、すでに死から命へ移っています。 25まことに、まことに、あなたがたに告げます。死者が神の子の声を聞く時が来ます。今がその時です。そして、聞く者は生きます。 26父がご自分のうちに命を持っておられるように、御子にもご自分のうちに命を持つことをお与えになりました。 27また、人の子であるため、裁きを行う権威を御子にお与えになりました。 28このことに驚いてはなりません。墓の中にいるすべての者が御子の声を聞く時が来るからです。 29彼らは墓から出て来ます。良いことを行った者は命の復活へ、悪いことを行った者は裁きの復活へと出て来るのです。 30私は自分からは何もできません。私は聞いたとおりに裁きます。そして私の裁きは正しいのです。自分の意志ではなく、私を遣わされた父の御心を求めるからです。 31もし私が自分についてあかしするなら、私のあかしは真実とは認められません。 32私についてあかしする別の方がおられます。私は、その方が私についてなさるあかしが真実であることを知っています。 33あなたがたはヨハネのもとに人を遣わし、彼は真理についてあかししました。 34しかし、私が受けるあかしは人からのものではありません。それでも、あなたがたが救われるために、私はこれらのことを言うのです。 35ヨハネは燃えて輝くともしびでした。あなたがたは、しばらくの間、その光の中で喜ぶことを望みました。 36しかし、私にはヨハネのあかしよりも偉大なあかしがあります。父が私に成し遂げるように与えられた業、すなわち私が行っているその業自体が、父が私を遣わされたことをあかししているからです。 37また、私を遣わされた父ご自身が、私についてあかしされました。あなたがたは、これまで一度もその声を聞いたことも、その姿を見たこともありません。 38また、父の言葉があなたがたのうちにとどまっていません。父が遣わされた方を、あなたがたは信じていないからです。 39あなたがたは、聖書の中に永遠の命があると考えて、聖書を調べています。その聖書こそ、私についてあかしするものです。 40それなのに、あなたがたは命を得るために私のもとへ来ようとしません。 41私は人からの栄誉を受けません。 42しかし、私はあなたがたを知っています。あなたがたのうちには神の愛がありません。 43私は父の名によって来たのに、あなたがたは私を受け入れません。ほかの者が自分の名によって来れば、あなたがたはその者を受け入れるでしょう。 44互いに栄誉を受けながら、唯一の神から来る栄誉を求めないあなたがたが、どうして信じることができるでしょうか。 45私が父の前であなたがたを訴えると思ってはなりません。あなたがたを訴える者がいます。あなたがたが望みを置いているモーセです。 46もしあなたがたがモーセを信じていたなら、私をも信じたでしょう。モーセは私について書いたからです。 47しかし、モーセの書いたものを信じないなら、どうして私の言葉を信じるでしょうか。」
第6章
1これらのことの後、イエスはガリラヤの湖、すなわちティベリアス湖の向こう岸へ行かれた。 2大勢の群衆がイエスについて行った。イエスが病人たちに行われたしるしを見たからである。 3イエスは山に上り、弟子たちとともにそこに座られた。 4さて、ユダヤ人の祭りである過越の祭りが近づいていた。 5イエスは目を上げ、大勢の群衆がご自分のもとに来るのを見て、フィリポに「この人たちに食べさせるパンを、どこで買いましょうか」と言われた。 6イエスがこう言われたのは、フィリポを試すためであった。ご自分では、何をしようとしているか分かっておられたからである。 7フィリポは答えた。「一人ひとりが少しずつ取るとしても、二百デナリのパンでは足りません。」 8弟子の一人で、シモン・ペテロの兄弟アンデレがイエスに言った。 9「ここに、大麦のパン五つと魚二匹を持っている少年がいます。しかし、これほど大勢の人に、それが何になるでしょう。」 10イエスは「人々を座らせなさい」と言われた。その場所には草がたくさん生えていた。そこで人々は座った。男の数はおよそ五千人であった。 11イエスはパンを取り、感謝をささげてから弟子たちに分け、弟子たちは座っている人々に分けた。魚も同じように、彼らが望むだけ分け与えた。 12人々が満腹になると、イエスは弟子たちに「何も無駄にならないように、残ったパン切れを集めなさい」と言われた。 13そこで彼らが集めると、人々が食べた後に残った五つの大麦のパンの切れ端で、十二の籠がいっぱいになった。 14人々はイエスが行われたしるしを見て、「この方こそ、まことに世に来るあの預言者だ」と言った。 15イエスは、人々が来てご自分を無理やり王にしようとしていることを察し、再びただ一人で山へ退かれた。 16夕方になると、弟子たちは湖へ下りた。 17そして舟に乗り、湖を渡ってカペナウムへ向かった。すでに暗くなっていたが、イエスはまだ彼らのところに来ておられなかった。 18激しい風が吹き、湖は荒れていた。 19弟子たちが二十五ないし三十スタディオンほどこぎ出した時、イエスが湖の上を歩き、舟に近づいて来られるのを見て、恐れた。 20しかし、イエスは彼らに「私です。恐れてはなりません」と言われた。 21そこで彼らは喜んでイエスを舟に迎え入れた。すると舟はすぐに、彼らが目指していた岸に着いた。 22翌日、湖の向こう岸にとどまっていた群衆は、そこには弟子たちが乗った一そうの舟のほかに舟がなかったこと、またイエスが弟子たちと一緒に舟に乗らず、弟子たちだけで出発したことに気づいた。 23ところが、主が感謝をささげられた後、人々がパンを食べた場所の近くに、ティベリアスから来た舟が何そうか着いた。 24群衆は、そこにイエスも弟子たちもいないことを知ると、自分たちも舟に乗り、イエスを捜してカペナウムへ行った。 25そして湖の向こう岸でイエスを見つけると、「ラビ、いつここに来られたのですか」と尋ねた。 26イエスは彼らに答えられた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。あなたがたが私を捜しているのは、しるしを見たからではなく、パンを食べて満腹したからです。 27朽ちる食物のためではなく、永遠の命に至るまで残る食物のために働きなさい。それは人の子があなたがたに与えるものです。父なる神が、人の子に証印を押されたからです。」 28そこで彼らは尋ねた。「神の業を行うために、私たちは何をしなければなりませんか。」 29イエスは答えられた。「神の業とは、神が遣わされた者をあなたがたが信じることです。」 30そこで彼らは言った。「それでは、私たちが見てあなたを信じられるように、どんなしるしを行うのですか。どのような業をするのですか。 31私たちの先祖は荒野でマナを食べました。『彼は天からパンを与えて彼らに食べさせた』と書かれているとおりです。」 32そこでイエスは彼らに言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。天からのパンをあなたがたに与えたのはモーセではありません。私の父が、天からのまことのパンをあなたがたに与えておられるのです。 33神のパンとは、天から下って来て、世に命を与えるものです。」 34そこで彼らは言った。「主よ、そのパンをいつも私たちに与えてください。」 35イエスは彼らに言われた。「私が命のパンです。私のもとに来る者は決して飢えず、私を信じる者は決して渇きません。 36しかし、私はあなたがたに言いました。あなたがたは私を見たのに、それでも信じません。 37父が私に与えてくださる者は皆、私のもとに来ます。そして、私のもとに来る者を、私は決して追い出しません。 38私が天から下って来たのは、自分の意志を行うためではなく、私を遣わされた方の御心を行うためだからです。 39私を遣わされた父の御心は、父が私に与えてくださったすべての者を一人も失わず、終わりの日によみがえらせることです。 40私を遣わされた方の御心は、御子を見て信じる者が皆、永遠の命を持つことです。私はその人を終わりの日によみがえらせます。」 41ユダヤ人たちは、イエスが「私は天から下って来たパンです」と言われたので、イエスについて不平を言った。 42彼らは言った。「これはヨセフの子イエスではないか。われわれはその父も母も知っている。それなのに、どうして今、『私は天から下って来た』と言うのか。」 43そこでイエスは彼らに答えられた。「互いに不平を言うのはやめなさい。 44私を遣わされた父が引き寄せてくださらなければ、だれも私のもとに来ることはできません。そして私は、その人を終わりの日によみがえらせます。 45預言者たちの書に、『彼らは皆、神に教えられる』と書かれています。ですから、父から聞いて学んだ者は皆、私のもとに来ます。 46神から来た者のほかに、父を見た者がいるということではありません。その方は父を見ました。 47まことに、まことに、あなたがたに告げます。私を信じる者には永遠の命があります。 48私が命のパンです。 49あなたがたの先祖は荒野でマナを食べましたが、死にました。 50しかし、これは天から下って来るパンであり、だれでもこれを食べる者は死にません。 51私は天から下って来た生けるパンです。だれでもこのパンを食べるなら、永遠に生きます。私が世の命のために与えるパンは、私の肉です。」 52そこでユダヤ人たちは、「この人は、どうして自分の肉をわれわれに与えて食べさせることができるのか」と互いに激しく議論した。 53そこでイエスは彼らに言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたがたのうちに命はありません。 54私の肉を食べ、私の血を飲む者には永遠の命があります。私はその人を終わりの日によみがえらせます。 55私の肉はまことの食物であり、私の血はまことの飲み物だからです。 56私の肉を食べ、私の血を飲む者は私のうちにとどまり、私もその人のうちにとどまります。 57生ける父が私を遣わされ、私が父によって生きているように、私を食べる者も私によって生きます。 58これは天から下って来たパンです。私たちの先祖がマナを食べて死んだのとは違います。このパンを食べる者は永遠に生きます。」 59イエスはカペナウムの会堂で教えておられた時、これらのことを言われた。 60そこで弟子たちの多くは、これを聞いて言った。「これは厳しい言葉だ。だれが聞いていられるだろう。」 61しかしイエスは、弟子たちがこのことで不平を言っているのをご自分のうちで知り、彼らに言われた。「このことがあなたがたをつまずかせるのですか。 62それでは、人の子が以前いた所へ上って行くのを見たら、どうでしょう。 63命を与えるのは霊です。肉は何の役にも立ちません。私があなたがたに語る言葉は霊であり、命です。 64しかし、あなたがたの中には信じない者がいます。」イエスは初めから、信じない者たちがだれであるか、またご自分を裏切る者がだれであるかを知っておられたからである。 65そして言われた。「ですから私は、父から与えられなければ、だれも私のもとに来ることはできないと、あなたがたに言ったのです。」 66このことを境に、弟子たちの多くが離れ去り、もはやイエスとともに歩まなくなった。 67そこでイエスは十二人に言われた。「あなたがたも去って行きたいのですか。」 68シモン・ペテロが答えた。「主よ、私たちはだれのところへ行けばよいのでしょう。あなたは永遠の命の言葉を持っておられます。 69私たちは、あなたがキリスト、生ける神の子であると信じ、知っています。」 70イエスは彼らに答えられた。「私があなたがた十二人を選んだのではありませんか。それなのに、あなたがたのうちの一人は悪魔です。」 71イエスはシモン・イスカリオテの子ユダについて言われたのである。このユダが、十二人の一人でありながら、イエスを裏切ろうとしていたからである。
第7章
1これらのことの後、イエスはガリラヤを巡っておられた。ユダヤ人たちがイエスを殺そうとしていたので、ユダヤを巡ろうとはされなかったのである。 2さて、ユダヤ人の祭りである仮庵の祭りが近づいていた。 3そこでイエスの兄弟たちは言った。「ここを去ってユダヤへ行き、あなたが行っている業を弟子たちにも見せたらどうですか。 4公に知られようとしながら、ひそかに事を行う人はいません。このようなことを行うのなら、自分を世に示しなさい。」 5兄弟たちさえ、イエスを信じていなかったからである。 6そこでイエスは彼らに言われた。「私の時はまだ来ていません。しかし、あなたがたの時はいつでも整っています。 7世はあなたがたを憎むことができません。しかし、私を憎みます。私が世について、その行いが悪いとあかしするからです。 8あなたがたは祭りに上って行きなさい。私はまだこの祭りには上りません。私の時はまだ満ちていないからです。」 9こう言って、イエスはガリラヤにとどまられた。 10しかし兄弟たちが祭りに上って行った後、イエスご自身も、人目につくようにではなく、いわばひそかに上って行かれた。 11そこでユダヤ人たちは祭りでイエスを捜し、「あの人はどこにいるのか」と言っていた。 12群衆の間では、イエスについて盛んにささやかれていた。ある者は「良い人だ」と言い、ほかの者は「いや、群衆を惑わしている」と言った。 13しかし、ユダヤ人たちを恐れて、イエスについて公然と語る者はいなかった。 14祭りも半ばになったころ、イエスは宮に上って教えられた。 15そこでユダヤ人たちは驚いて言った。「この人は正式に学んだこともないのに、どうしてこれほど学識があるのか。」 16イエスは彼らに答えられた。「私の教えは私のものではなく、私を遣わされた方のものです。 17だれでもその方の御心を行おうと望むなら、この教えが神から出たものか、それとも私が自分から語っているのかが分かります。 18自分から語る者は自分の栄誉を求めます。しかし、自分を遣わした方の栄誉を求める者は真実であり、その人のうちに不義はありません。 19モーセはあなたがたに律法を与えたのではありませんか。それなのに、あなたがたのうち、だれ一人として律法を守っていません。なぜ私を殺そうとするのですか。」 20群衆は答えた。「あなたは悪霊に取りつかれている。だれがあなたを殺そうとしているのか。」 21イエスは彼らに答えられた。「私が一つの業を行ったので、あなたがたは皆、そのことで驚いています。 22モーセはあなたがたに割礼を与えました。もっとも、割礼はモーセからではなく、父祖たちから始まったものです。そのため、あなたがたは安息日にも男の子に割礼を施します。 23モーセの律法が破られないように安息日にも男の子が割礼を受けるのなら、私が安息日に一人の人を完全に健康にしたからといって、私に腹を立てるのですか。 24うわべによって裁かず、正しい裁きをしなさい。」 25そこでエルサレムの人々の中には、こう言う者がいた。「この人は、彼らが殺そうとしている者ではないか。 26見よ、彼は公然と話しているのに、彼らは何も言わない。もしかすると、指導者たちは、この人が本当にキリストだと知っているのだろうか。 27しかし、われわれはこの人がどこから来たか知っている。キリストが来る時には、どこから来たかを知る者はいないはずだ。」 28そこでイエスは、宮で教えながら大声で言われた。「あなたがたは私を知っており、私がどこから来たかも知っています。しかし、私は自分から来たのではありません。私を遣わされた方は真実ですが、あなたがたはその方を知りません。 29私はその方を知っています。私はその方から来た者であり、その方が私を遣わされたからです。」 30そこで彼らはイエスを捕らえようとした。しかし、だれもイエスに手をかけなかった。イエスの時がまだ来ていなかったからである。 31しかし、群衆の中の多くの人がイエスを信じて言った。「キリストが来られても、この方が行ったより多くのしるしを行うことはないだろう。」 32パリサイ人たちは、群衆がイエスについてこのようにささやいているのを聞いた。そこで祭司長たちとパリサイ人たちは、イエスを捕らえるために役人たちを遣わした。 33そこでイエスは言われた。「私はもうしばらくあなたがたとともにいて、それから私を遣わされた方のもとへ行きます。 34あなたがたは私を捜しても見つけられません。また、私がいる所に、あなたがたは来ることができません。」 35そこでユダヤ人たちは互いに言った。「この人はどこへ行こうとしているので、われわれには見つけられないというのか。ギリシャ人の間に離散している人々のところへ行って、ギリシャ人を教えようというのか。 36彼が言った、『あなたがたは私を捜しても見つけられない』、また『私がいる所に、あなたがたは来ることができない』という言葉は、どういう意味なのか。」 37祭りの最後の大いなる日に、イエスは立って大声で言われた。「だれでも渇いているなら、私のもとに来て飲みなさい。 38私を信じる者は、聖書が言っているとおり、その人の内から生ける水の川が流れ出ます。」 39イエスは、ご自分を信じる者たちが受けようとしていた聖霊について、こう言われたのである。イエスがまだ栄光を受けておられなかったので、聖霊はまだ与えられていなかった。 40群衆の多くはこれらの言葉を聞いて、「この方こそ、まことにあの預言者だ」と言った。 41ほかの者たちは「この方はキリストだ」と言った。しかし、ある者たちは言った。「まさか、キリストがガリラヤから出ることはないだろう。 42聖書には、キリストはダビデの子孫から出て、ダビデの村ベツレヘムから来ると書かれているではないか。」 43こうして、イエスのことで群衆の間に分裂が生じた。 44彼らの中にはイエスを捕らえようとする者もいたが、だれもイエスに手をかけなかった。 45役人たちは祭司長たちとパリサイ人たちのもとへ戻った。彼らは役人たちに「なぜあの人を連れて来なかったのか」と尋ねた。 46役人たちは答えた。「あの人のように語った人は、これまで一人もいません。」 47そこでパリサイ人たちは彼らに答えた。「あなたがたまで惑わされたのか。 48指導者たちやパリサイ人たちの中に、あの男を信じた者がいるか。 49だが、律法を知らないこの群衆は呪われている。」 50彼らの一人であり、以前、夜にイエスのもとへ来たニコデモが言った。 51「われわれの律法は、まず本人から話を聞き、その人が何をしているかを知る前に、その人を裁くだろうか。」 52彼らは答えた。「あなたもガリラヤ出身なのか。調べてみなさい。ガリラヤから預言者が起こったことはないと分かるだろう。」 53人々はそれぞれ自分の家へ帰って行った。
第8章
1しかし、イエスはオリーブ山へ行かれた。 2朝早く、イエスは再び宮に来られた。民は皆、イエスのもとに来た。イエスは座って、彼らを教えられた。 3律法学者たちとパリサイ人たちは、姦淫の現場で捕らえられた一人の女を連れて来た。そして彼女を真ん中に立たせ、 4イエスに言った。「先生、この女は姦淫をしている現場で捕らえられました。 5律法の中で、モーセはこのような女を石打ちにするよう、われわれに命じています。それでは、あなたは彼女について何と言いますか。」 6彼らがこう言ったのは、イエスを試し、訴える口実を得るためであった。しかし、イエスは身をかがめ、指で地面に書いておられた。 7それでも彼らが問い続けたので、イエスは身を起こして言われた。「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げなさい。」 8そして再び身をかがめ、指で地面に書かれた。 9彼らはそれを聞くと、良心に責められ、年長者から始めて最後の者に至るまで、一人また一人と出て行った。イエスだけが残され、女はその場の真ん中に残っていた。 10イエスは立ち上がって彼女を見て、「婦人よ、あなたを訴えた人たちはどこにいますか。だれもあなたを罪に定めなかったのですか」と言われた。 11彼女は「主よ、だれも」と答えた。イエスは言われた。「私もあなたを罪に定めません。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはなりません。」 12そこでイエスは再び人々に語られた。「私は世の光です。私に従う者は闇の中を歩むことがなく、命の光を持ちます。」 13そこでパリサイ人たちはイエスに言った。「あなたは自分についてあかししている。あなたのあかしは有効ではない。」 14イエスは彼らに答えられた。「たとえ私が自分についてあかししても、私のあかしは真実です。私はどこから来て、どこへ行くのかを知っています。しかし、あなたがたは私がどこから来て、どこへ行くのかを知りません。 15あなたがたは肉に従って裁きます。私はだれも裁きません。 16しかし、たとえ私が裁いても、私の裁きは真実です。私だけではなく、私を遣わされた父がともにおられるからです。 17あなたがたの律法にも、二人の人のあかしは有効であると書かれています。 18私は自分についてあかしする者であり、私を遣わされた父も私についてあかしされます。」 19そこで彼らはイエスに「あなたの父はどこにいるのか」と尋ねた。イエスは答えられた。「あなたがたは私も、私の父も知りません。もし私を知っていたなら、私の父をも知っていたでしょう。」 20イエスは宮で教えておられた時、宝物庫でこれらの言葉を語られた。それでも、だれもイエスを捕らえなかった。イエスの時がまだ来ていなかったからである。 21そこでイエスは再び彼らに言われた。「私は去って行きます。あなたがたは私を捜しますが、自分の罪のうちに死にます。私が行く所に、あなたがたは来ることができません。」 22そこでユダヤ人たちは言った。「彼は『私が行く所に、あなたがたは来ることができない』と言っている。自殺するつもりなのか。」 23イエスは彼らに言われた。「あなたがたは下から来た者です。私は上から来た者です。あなたがたはこの世に属しています。私はこの世に属していません。 24ですから私は、あなたがたは自分の罪のうちに死ぬと言ったのです。私がその者であると信じなければ、あなたがたは自分の罪のうちに死ぬからです。」 25そこで彼らはイエスに「あなたはだれなのか」と尋ねた。イエスは彼らに言われた。「初めからあなたがたに言っているとおりの者です。 26私には、あなたがたについて語り、裁くべきことが多くあります。しかし、私を遣わされた方は真実です。私はその方から聞いたことを世に語ります。」 27彼らは、イエスが父について語っておられることを理解しなかった。 28そこでイエスは彼らに言われた。「あなたがたが人の子を上げた時、私がその者であること、また私が自分からは何もせず、父が私に教えられたとおりにこれらのことを語っていることが分かります。 29私を遣わされた方は私とともにおられます。父は私を一人にされません。私はいつも父に喜ばれることを行うからです。」 30イエスがこれらのことを語られると、多くの人がイエスを信じた。 31そこでイエスは、ご自分を信じたユダヤ人たちに言われた。「あなたがたが私の言葉にとどまるなら、本当に私の弟子です。 32あなたがたは真理を知り、真理はあなたがたを自由にします。」 33彼らはイエスに答えた。「われわれはアブラハムの子孫であり、これまでだれの奴隷になったこともない。それなのに、どうしてあなたは『あなたがたは自由にされる』と言うのか。」 34イエスは彼らに答えられた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。罪を犯す者は皆、罪の奴隷です。 35奴隷はいつまでも家にいるわけではありません。しかし、子はいつまでもいます。 36ですから、御子があなたがたを自由にするなら、あなたがたは本当に自由になります。 37あなたがたがアブラハムの子孫であることは知っています。それでもあなたがたは私を殺そうとしています。私の言葉があなたがたのうちに入る余地がないからです。 38私は父のもとで見たことを語っています。あなたがたも、自分の父のもとで見たことを行っています。」 39彼らはイエスに「われわれの父はアブラハムだ」と答えた。イエスは彼らに言われた。「もしあなたがたがアブラハムの子どもなら、アブラハムの行いをするはずです。 40ところが今、あなたがたは、神から聞いた真理をあなたがたに告げた者である私を殺そうとしています。アブラハムはそのようなことをしませんでした。 41あなたがたは、自分の父の行いをしているのです。」彼らはイエスに言った。「われわれは淫らな関係から生まれたのではない。われわれにはただ一人の父、神がおられる。」 42そこでイエスは彼らに言われた。「もし神があなたがたの父であったなら、あなたがたは私を愛したでしょう。私は神から出て、ここに来たからです。私は自分から来たのではなく、神が私を遣わされたのです。 43なぜあなたがたは私の話すことを理解しないのですか。それは、私の言葉を聞き入れることができないからです。 44あなたがたは、あなたがたの父である悪魔から出た者であり、自分の父の欲望を行いたいのです。悪魔は初めから人殺しであり、真理のうちに立っていません。彼のうちに真理がないからです。彼が偽りを語る時、自分の本性から語ります。彼は偽り者であり、偽りの父だからです。 45しかし、私が真理を語るので、あなたがたは私を信じません。 46あなたがたのうち、だれが私に罪があると証明できますか。私が真理を語っているなら、なぜ私を信じないのですか。 47神から出た者は神の言葉を聞きます。あなたがたが聞かないのは、神から出た者ではないからです。」 48そこでユダヤ人たちはイエスに答えた。「あなたはサマリア人で、悪霊に取りつかれていると、われわれが言うのは正しいではないか。」 49イエスは答えられた。「私は悪霊に取りつかれてはいません。私は父を敬っていますが、あなたがたは私を辱めています。 50しかし、私は自分の栄光を求めません。それを求め、裁く方がおられます。 51まことに、まことに、あなたがたに告げます。だれでも私の言葉を守るなら、その人は決して死を見ることがありません。」 52そこでユダヤ人たちはイエスに言った。「今、あなたが悪霊に取りつかれていることが分かった。アブラハムも預言者たちも死んだ。それなのにあなたは、『だれでも私の言葉を守るなら、その人は決して死を味わうことがない』と言う。 53あなたは、死んだわれわれの父アブラハムより偉いのか。預言者たちも死んだ。あなたは自分を何者だと言うのか。」 54イエスは答えられた。「もし私が自分に栄光を与えるなら、私の栄光には何の意味もありません。私に栄光を与えてくださるのは私の父です。あなたがたが『われわれの神だ』と言っている方です。 55あなたがたはその方を知りませんが、私は知っています。もし『その方を知らない』と言えば、私もあなたがたと同じく偽り者になるでしょう。しかし、私はその方を知り、その言葉を守っています。 56あなたがたの父アブラハムは、私の日を見ることを喜びました。彼はそれを見て喜んだのです。」 57そこでユダヤ人たちはイエスに言った。「あなたはまだ五十歳にもなっていない。それなのに、アブラハムを見たのか。」 58イエスは彼らに言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。アブラハムが存在する前から、私はある。」 59そこで彼らは、イエスに投げつけようと石を拾った。しかし、イエスは身を隠し、彼らの真ん中を通り抜けて宮から出て行き、そのまま立ち去られた。
第9章
1イエスは通りすがりに、生まれつき目の見えない人を見かけられた。 2弟子たちはイエスに尋ねた。「ラビ、この人が目の見えない者として生まれたのは、だれが罪を犯したからですか。この人ですか、それとも両親ですか。」 3イエスは答えられた。「この人が罪を犯したのでも、両親が罪を犯したのでもありません。神の業がこの人に現されるためです。 4昼の間に、私は私を遣わされた方の業を行わなければなりません。だれも働くことのできない夜が来ます。 5私が世にいる間、私は世の光です。」 6こう言ってから、イエスは地面につばを吐き、そのつばで泥を作り、その泥を目の見えない人の目に塗って、 7「行って、シロアムの池で洗いなさい」と言われた。シロアムとは「遣わされた」という意味である。そこで彼は行って洗い、目が見えるようになって帰って来た。 8近所の人々や、以前彼が目の見えない者であったのを見ていた人々は、「これは座って物乞いをしていた人ではないか」と言った。 9ある者たちは「その人だ」と言い、ほかの者たちは「その人に似ている」と言った。本人は「私がその人です」と言った。 10そこで人々は彼に尋ねた。「では、どうして目が開いたのですか。」 11彼は答えた。「イエスという方が泥を作って私の目に塗り、『シロアムの池へ行って洗いなさい』と言われました。それで行って洗うと、見えるようになったのです。」 12彼らは「その人はどこにいるのですか」と尋ねた。彼は「知りません」と答えた。 13人々は、以前目の見えなかったその人をパリサイ人たちのところへ連れて行った。 14イエスが泥を作って彼の目を開かれた日は、安息日であった。 15そこでパリサイ人たちもまた、どのようにして見えるようになったのかを彼に尋ねた。彼は「その方が私の目に泥を塗り、私が洗うと、見えるようになりました」と答えた。 16そこでパリサイ人のある者たちは言った。「この人は神から来た者ではない。安息日を守らないからだ。」ほかの者たちは言った。「罪人がどうしてこのようなしるしを行えるだろう。」こうして彼らの間に分裂が生じた。 17そこで彼らは、目の見えなかった人に再び尋ねた。「あの人があなたの目を開いたことについて、あなたは彼を何者だと言うのか。」彼は「預言者です」と答えた。 18しかしユダヤ人たちは、彼が目の見えない者であったのに見えるようになったことを信じず、ついには見えるようになった人の両親を呼び出して、 19尋ねた。「これは、生まれつき目が見えなかったとあなたがたが言っている息子か。それでは、どうして今は見えるようになったのか。」 20両親は答えた。「これが私たちの息子であり、生まれつき目が見えなかったことは知っています。 21しかし、どうして今は見えるようになったのか、まただれが目を開いたのかは知りません。もう大人です。本人に聞いてください。自分のことは自分で話すでしょう。」 22両親がこう言ったのは、ユダヤ人たちを恐れていたからである。ユダヤ人たちはすでに、イエスをキリストだと告白する者がいれば、会堂から追放すると決めていた。 23そのため両親は、「もう大人です。本人に聞いてください」と言ったのである。 24そこで彼らは、目の見えなかった人をもう一度呼び出し、「神に栄光を帰しなさい。われわれは、あの人が罪人だと知っている」と言った。 25彼は答えた。「あの方が罪人かどうかは知りません。ただ一つ知っているのは、私は目が見えなかったのに、今は見えるということです。」 26彼らは再び尋ねた。「あの人はあなたに何をしたのか。どうやってあなたの目を開いたのか。」 27彼は答えた。「もう話したのに、あなたがたは聞こうとしませんでした。なぜもう一度聞きたいのですか。あなたがたもあの方の弟子になりたいのではありませんか。」 28すると彼らは彼をののしって言った。「おまえはあの男の弟子だが、われわれはモーセの弟子だ。 29神がモーセに語られたことは知っている。しかし、あの男がどこから来たかは知らない。」 30その人は彼らに答えた。「これは実に驚くべきことです。あの方がどこから来たかをあなたがたは知らないのに、あの方は私の目を開いてくださいました。 31神が罪人の言うことを聞かれないことを、私たちは知っています。しかし、神を礼拝し、その御心を行う者がいれば、神はその人の言うことを聞かれます。 32生まれつき目の見えない人の目を開いた者がいるということは、世が始まって以来、聞いたことがありません。 33あの方が神から来たのでなければ、何もできなかったはずです。」 34彼らは答えた。「おまえは全く罪の中に生まれたのに、われわれを教えるのか。」そして彼を外へ追い出した。 35イエスは、彼が外へ追い出されたと聞き、彼を見つけて、「あなたは神の子を信じますか」と言われた。 36彼は答えた。「主よ、その方はどなたですか。私がその方を信じることができるように、教えてください。」 37イエスは彼に言われた。「あなたはもうその人を見ています。あなたと話している者が、その人です。」 38彼は「主よ、信じます」と言い、イエスを礼拝した。 39イエスは言われた。「私は裁きのためにこの世へ来ました。それは、見えない者が見えるようになり、見える者が目の見えない者となるためです。」 40イエスとともにいたパリサイ人たちがこれを聞き、「われわれも目が見えないというのか」と言った。 41イエスは彼らに言われた。「もしあなたがたの目が見えなかったなら、あなたがたに罪はなかったでしょう。しかし今、あなたがたは『見える』と言っています。ですから、あなたがたの罪は残っています。」
第10章
1「まことに、まことに、あなたがたに告げます。羊の囲いに戸口から入らず、ほかの所を乗り越えて入る者は、盗人であり強盗です。 2しかし、戸口から入る者は羊の牧者です。 3門番は牧者のために門を開き、羊はその声を聞きます。牧者は自分の羊を一匹ずつ名を呼んで連れ出します。 4自分の羊をすべて外に出すと、その先頭に立って進みます。羊はその声を知っているので、牧者について行きます。 5しかし、知らない者には決してついて行かず、かえって逃げます。知らない者たちの声を知らないからです。」 6イエスはこのたとえを彼らに話されたが、彼らはイエスが何を言っておられるのか理解しなかった。 7そこでイエスは再び彼らに言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。私が羊の戸口です。 8私より前に来た者は皆、盗人であり強盗です。しかし、羊は彼らの言うことを聞きませんでした。 9私が戸口です。だれでも私を通って入るなら救われ、出入りして牧草を見つけます。 10盗人が来るのは、盗み、殺し、滅ぼすためにほかなりません。私が来たのは、羊たちが命を得、しかも豊かに得るためです。 11私は良い牧者です。良い牧者は羊のために自分の命を捨てます。 12雇われ人は牧者ではなく、羊も自分のものではありません。そのため、狼が来るのを見ると、羊を残して逃げてしまいます。狼は羊を奪い、散らします。 13雇われ人が逃げるのは、雇われ人であって、羊のことを心にかけていないからです。 14私は良い牧者です。私は自分の羊を知っており、私の羊も私を知っています。 15それは、父が私を知り、私が父を知っているのと同じです。私は羊のために自分の命を捨てます。 16私には、この囲いに属していないほかの羊もいます。私はその羊たちをも連れて来なければなりません。彼らは私の声を聞き、一つの群れ、一人の牧者となります。 17父が私を愛してくださるのは、私が自分の命を捨てるからです。それは、私が再び命を得るためです。 18だれも私から命を奪うのではありません。私が自分から命を捨てるのです。私にはそれを捨てる権威があり、再び得る権威もあります。私はこの命令を父から受けました。」 19これらの言葉のため、ユダヤ人たちの間に再び分裂が生じた。 20彼らの多くは言った。「彼は悪霊に取りつかれ、気が狂っている。なぜ彼の言うことを聞くのか。」 21ほかの者たちは言った。「これは悪霊に取りつかれた者の言葉ではない。悪霊に目の見えない人の目を開くことができるだろうか。」 22そのころ、エルサレムでは宮きよめの祭りが行われた。 23冬であった。イエスは宮の中のソロモンの回廊を歩いておられた。 24するとユダヤ人たちがイエスを取り囲み、言った。「いつまでわれわれを迷わせておくのか。あなたがキリストなら、はっきり言ってくれ。」 25イエスは彼らに答えられた。「私はあなたがたに言いましたが、あなたがたは信じません。私が父の名によって行う業が、私についてあかししています。 26しかし、私が言ったように、あなたがたは私の羊ではないので信じません。 27私の羊は私の声を聞きます。私は彼らを知っており、彼らは私に従います。 28私は彼らに永遠の命を与えます。彼らは決して滅びず、だれも彼らを私の手から奪い去ることはできません。 29彼らを私に与えてくださった私の父は、すべてのものより偉大です。だれも彼らを父の手から奪い去ることはできません。 30私と父とは一つです。」 31そこでユダヤ人たちは、イエスを石打ちにしようとして、再び石を拾った。 32イエスは彼らに答えられた。「私は父から出た多くの良い業をあなたがたに示しました。そのうちのどの業のために、私を石打ちにするのですか。」 33ユダヤ人たちは答えた。「良い業のために石打ちにするのではない。冒涜のためだ。あなたは人間でありながら、自分を神としているからだ。」 34イエスは彼らに答えられた。「あなたがたの律法に、『私は言った。あなたがたは神々である』と書かれているではありませんか。 35神の言葉を受けた人々を神々と呼んだのであれば、そして聖書が無効にされることはないのですから、 36父が聖別して世に遣わされた者が『私は神の子です』と言ったからといって、あなたがたは『神を冒涜している』と言うのですか。 37もし私が父の業を行っていないなら、私を信じてはなりません。 38しかし、行っているなら、たとえ私を信じなくても、その業を信じなさい。それは、父が私のうちにおられ、私が父のうちにいることを、あなたがたが知って信じるためです。」 39そこで彼らは再びイエスを捕らえようとした。しかし、イエスは彼らの手を逃れられた。 40イエスは再びヨルダン川の向こう側へ行き、ヨハネが初めにバプテスマを授けていた場所に滞在された。 41多くの人がイエスのもとに来て言った。「ヨハネは一つもしるしを行わなかったが、この方についてヨハネが言ったことはすべて真実だった。」 42そこで多くの人がイエスを信じた。
第11章
1さて、ある人が病気にかかっていた。マリアとその姉妹マルタの村ベタニアに住むラザロであった。 2このマリアは、主に香油を塗り、自分の髪でその足をぬぐった人である。病気になったラザロは彼女の兄弟であった。 3そこで姉妹たちは、イエスのもとに人を遣わし、「主よ、見よ、あなたが深く愛しておられる者が病気です」と伝えた。 4しかしイエスはそれを聞いて言われた。「この病気は死に至るものではなく、神の栄光のためのものです。それによって神の子が栄光を受けるためです。」 5イエスはマルタとその姉妹とラザロを愛しておられた。 6それで、ラザロが病気だと聞いても、イエスはおられた場所にさらに二日とどまられた。 7その後、弟子たちに「もう一度ユダヤへ行きましょう」と言われた。 8弟子たちは尋ねた。「ラビ、つい先ほどユダヤ人たちがあなたを石打ちにしようとしたのに、またそこへ行かれるのですか。」 9イエスは答えられた。「昼は十二時間ではありませんか。昼間に歩く人は、この世の光を見るので、つまずきません。 10しかし、夜に歩く人は、その人のうちに光がないので、つまずきます。」 11こう言った後、さらに彼らに言われた。「私たちの友ラザロは眠っています。しかし、私は彼を眠りから起こすために行きます。」 12そこで弟子たちは言った。「主よ、眠っているのなら、良くなるでしょう。」 13イエスはラザロの死について語られたのだが、弟子たちは眠って休んでいることを語られたと思ったのである。 14そこでイエスは、彼らにはっきりと言われた。「ラザロは死にました。 15私がそこにいなかったことを、あなたがたのために喜んでいます。それは、あなたがたが信じるためです。さあ、彼のところへ行きましょう。」 16そこで、ディディモと呼ばれるトマスが、仲間の弟子たちに言った。「私たちも行って、イエスと一緒に死のう。」 17イエスが着くと、ラザロはすでに四日間、墓の中にいた。 18ベタニアはエルサレムに近く、約十五スタディオン離れていた。 19多くのユダヤ人が、兄弟を亡くしたマルタとマリアを慰めるため、二人のもとに来ていた。 20マルタは、イエスが来られると聞くと迎えに出たが、マリアは家に座っていた。 21そこでマルタはイエスに言った。「主よ、もしここにいてくださったなら、私の兄弟は死ななかったでしょう。 22しかし今でも、あなたが神に求めることは何でも、神があなたに与えてくださると知っています。」 23イエスは彼女に「あなたの兄弟はよみがえります」と言われた。 24マルタは言った。「終わりの日の復活の時に、彼がよみがえることは知っています。」 25イエスは彼女に言われた。「私が復活であり、命です。私を信じる者は、たとえ死んでも生きます。 26生きていて私を信じる者は皆、決して死にません。あなたはこのことを信じますか。」 27彼女は言った。「はい、主よ。あなたがキリスト、神の子、世に来られる方であると、私は信じています。」 28こう言うと、マルタは帰って行き、姉妹マリアをひそかに呼んで、「先生が来て、あなたを呼んでおられます」と言った。 29マリアはそれを聞くと、すぐに立ち上がり、イエスのもとへ向かった。 30イエスはまだ村に入らず、マルタが出迎えた場所におられた。 31家でマリアと一緒にいて彼女を慰めていたユダヤ人たちは、マリアが急いで立ち上がって出て行くのを見ると、「墓へ泣きに行くのだろう」と思い、彼女について行った。 32マリアはイエスのおられる所に来て、イエスを見ると、その足もとにひれ伏して言った。「主よ、もしここにいてくださったなら、私の兄弟は死ななかったでしょう。」 33イエスは、マリアが泣き、一緒に来たユダヤ人たちも泣いているのを見て、霊の内に深くうめき、心を揺さぶられ、 34「彼をどこに置きましたか」と言われた。彼らは「主よ、来て、ご覧ください」と答えた。 35イエスは涙を流された。 36そこでユダヤ人たちは言った。「見なさい。どれほどラザロを深く愛しておられたことか。」 37しかし、彼らの中にはこう言う者もいた。「目の見えなかった人の目を開いたこの人が、ラザロを死なせないようにすることはできなかったのか。」 38イエスは再び深くうめきながら、墓へ来られた。それは洞穴で、入り口には石が置かれていた。 39イエスは「石を取りのけなさい」と言われた。死んだ人の姉妹マルタは、「主よ、もう臭くなっています。死んで四日になりますから」と言った。 40イエスは彼女に言われた。「信じるなら神の栄光を見ると、あなたに言ったではありませんか。」 41そこで人々は、死んだ人が横たわっていた場所から石を取りのけた。イエスは目を上げて言われた。「父よ、私の願いを聞いてくださったことを感謝します。 42あなたがいつも私の願いを聞いてくださることを、私は知っています。しかし、周りに立っている群衆のために、私はこう言いました。あなたが私を遣わされたことを、彼らが信じるためです。」 43こう言うと、イエスは大声で叫ばれた。「ラザロ、出て来なさい。」 44死んでいた人が出て来た。その手足は布で巻かれ、顔も布で包まれていた。イエスは人々に「彼をほどいて、行かせなさい」と言われた。 45そこで、マリアのもとに来て、イエスが行われたことを見たユダヤ人の多くが、イエスを信じた。 46しかし、彼らの中にはパリサイ人たちのところへ行き、イエスが行われたことを知らせる者もいた。 47そこで祭司長たちとパリサイ人たちは最高法院を招集して言った。「われわれは何をしているのか。この人は多くのしるしを行っている。 48このままにしておけば、皆が彼を信じるだろう。そうなればローマ人が来て、われわれの場所も国民も奪うだろう。」 49しかし、その年の大祭司であったカヤパという一人が、彼らに言った。「あなたがたは何も分かっていない。 50一人の人が民のために死に、国民全体が滅びない方が、われわれにとって有益だということを考えてもいない。」 51彼はこれを自分から言ったのではない。その年の大祭司であったので、イエスが国民のために死ぬことを預言したのである。 52しかも国民のためだけではなく、各地に散らされている神の子どもたちを一つに集めるためでもあった。 53そこで彼らは、その日からイエスを殺そうと相談した。 54そのためイエスは、もはやユダヤ人たちの間を公然とは歩かず、そこを去って荒野に近い地方へ行き、エフライムという町で弟子たちとともに滞在された。 55さて、ユダヤ人の過越の祭りが近づいていた。多くの人が自分を清めるため、過越の祭りの前に地方からエルサレムへ上った。 56彼らはイエスを捜し、宮に立ちながら互いに言った。「どう思うか。あの人は祭りに全く来ないのだろうか。」 57祭司長たちとパリサイ人たちは、イエスがどこにいるか知っている者は届け出るようにと命じていた。イエスを捕らえるためであった。
第12章
1過越の祭りの六日前、イエスはベタニアに来られた。そこには、死んでいたのをイエスが死者の中からよみがえらせたラザロがいた。 2人々はそこでイエスのために夕食を用意した。マルタが給仕し、ラザロはイエスとともに食卓に着いている人々の一人であった。 3そこでマリアは、非常に高価な純粋なナルドの香油一ローマ・ポンドを取り、イエスの足に塗り、自分の髪でその足をぬぐった。家は香油の香りでいっぱいになった。 4すると、弟子の一人で、イエスを裏切ろうとしていたシモンの子ユダ・イスカリオテが言った。 5「なぜこの香油を三百デナリで売って、貧しい人々に施さなかったのか。」 6彼がこう言ったのは、貧しい人々を心にかけていたからではなく、彼が盗人だったからである。彼は金入れを預かり、その中に入れられたものを盗んでいた。 7しかしイエスは言われた。「彼女をそのままにしておきなさい。彼女は私の埋葬の日のために、これを取っておいたのです。 8貧しい人々はいつもあなたがたとともにいますが、私はいつもあなたがたとともにいるわけではありません。」 9さて、大勢のユダヤ人が、イエスがそこにおられることを知ってやって来た。イエスのためだけではなく、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロを見るためでもあった。 10ところが祭司長たちは、ラザロも殺そうと相談した。 11ラザロのために、多くのユダヤ人が去ってイエスを信じたからである。 12翌日、祭りに来ていた大勢の群衆は、イエスがエルサレムに来られると聞いて、 13なつめやしの枝を手に取り、イエスを迎えに出て叫んだ。「ホサナ。主の名によって来られる方、イスラエルの王は幸いである。」 14イエスは一頭の若いろばを見つけ、それに乗られた。こう書かれているとおりである。 15「シオンの娘よ、恐れてはならない。見よ、あなたの王が、ろばの子に乗って来られる。」 16弟子たちは初め、これらのことを理解しなかった。しかし、イエスが栄光を受けられた時、これらのことがイエスについて書かれていたこと、また人々がイエスにこのようにしたことを思い出した。 17イエスがラザロを墓から呼び出し、死者の中からよみがえらせた時に一緒にいた群衆は、そのことをあかししていた。 18群衆がイエスを迎えに出たのも、イエスがこのしるしを行われたと聞いたからである。 19そこでパリサイ人たちは互いに言った。「見なさい。何をしても無駄だ。見よ、世全体が彼について行った。」 20さて、祭りで礼拝するために上って来た人々の中に、何人かのギリシャ人がいた。 21彼らはガリラヤのベツサイダ出身のフィリポのところへ来て、「先生、イエスにお会いしたいのです」と頼んだ。 22フィリポはアンデレのところへ行って伝えた。それからアンデレとフィリポはイエスのところへ行って伝えた。 23イエスは彼らに答えられた。「人の子が栄光を受ける時が来ました。 24まことに、まことに、あなたがたに告げます。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままです。しかし、死ぬなら、多くの実を結びます。 25自分の命を愛する者は、それを失います。この世で自分の命を憎む者は、それを保って永遠の命に至ります。 26私に仕える者は、私に従いなさい。私がいる所に、私に仕える者もいます。だれでも私に仕えるなら、父はその人を重んじてくださいます。 27今、私の心は騒いでいます。私は何と言えばよいのでしょう。『父よ、この時から私を救ってください』と言うべきでしょうか。しかし、私はこのために、この時に来たのです。 28父よ、あなたの御名の栄光を現してください。」すると天から、「私はすでに御名の栄光を現した。再び現す」という声がした。 29そばに立っていてその声を聞いた群衆は、「雷が鳴ったのだ」と言った。ほかの者たちは「御使いがイエスに話しかけたのだ」と言った。 30イエスは答えられた。「この声がしたのは、私のためではなく、あなたがたのためです。 31今、この世が裁かれます。今、この世の支配者が追い出されます。 32そして私は、地から上げられる時、すべての人を自分のもとに引き寄せます。」 33イエスは、ご自分がどのような死に方で死ぬかを示すために、こう言われたのである。 34群衆はイエスに答えた。「私たちは、キリストは永遠にとどまると律法から聞いている。それなのに、どうしてあなたは『人の子は上げられなければならない』と言うのか。その人の子とはだれなのか。」 35そこでイエスは彼らに言われた。「光はもうしばらく、あなたがたとともにあります。闇に追いつかれないよう、光がある間に歩きなさい。闇の中を歩く者は、自分がどこへ行くのか分かりません。 36光がある間に光を信じ、光の子どもとなりなさい。」イエスはこう言うと、立ち去って彼らから身を隠された。 37イエスが彼らの前でこれほど多くのしるしを行われたのに、彼らはイエスを信じなかった。 38それは、預言者イザヤが語った言葉が実現するためであった。「主よ、だれがわれわれの知らせを信じたのか。主の御腕はだれに現されたのか。」 39彼らが信じることができなかったのは、イザヤがさらにこう言っているからである。 40「神は彼らの目を見えなくし、彼らの心をかたくなにされた。それは、彼らが目で見ることも、心で悟ることも、立ち返ることもなく、私が彼らを癒やすこともないためである。」 41イザヤがこれらのことを言ったのは、イエスの栄光を見て、イエスについて語ったからである。 42それでも、指導者たちの中でさえ多くの者がイエスを信じた。しかし、会堂から追放されないように、パリサイ人たちを恐れて告白しなかった。 43彼らは神からの称賛よりも、人からの称賛を愛したからである。 44イエスは大声で言われた。「私を信じる者は、私だけでなく、私を遣わされた方を信じるのです。 45私を見る者は、私を遣わされた方を見ます。 46私は光として世に来ました。それは、私を信じる者がだれも闇の中にとどまらないためです。 47だれかが私の言葉を聞いて信じなくても、私はその人を裁きません。私は世を裁くためではなく、世を救うために来たからです。 48私を拒み、私の言葉を受け入れない者には、その人を裁くものがあります。私が語った言葉が、終わりの日にその人を裁きます。 49私は自分から語ったのではありません。私を遣わされた父が、何を言い、何を語るべきかを私に命じられました。 50私は、父の命令が永遠の命であることを知っています。ですから私は、父が私に言われたとおりに語るのです。」
第13章
1さて、過越の祭りの前、イエスはこの世を去って父のもとへ行くご自分の時が来たことを知り、世にいるご自分の者たちを愛して、最後まで彼らを愛し抜かれた。 2夕食の最中、悪魔はすでに、シモンの子ユダ・イスカリオテの心に、イエスを裏切る思いを植えつけていた。 3イエスは、父がすべてのものをご自分の手に与えられたこと、ご自分が神から来て神のもとへ行くことを知って、 4夕食の席から立ち上がり、上着を脱がれた。そして手ぬぐいを取り、腰に巻かれた。 5それから、たらいに水を注ぎ、弟子たちの足を洗い、腰に巻いた手ぬぐいで拭き始められた。 6こうしてシモン・ペテロのところに来られた。ペテロはイエスに言った。「主よ、あなたが私の足を洗われるのですか。」 7イエスは彼に答えられた。「私がしていることは、今はあなたには分かりませんが、後で分かるようになります。」 8ペテロはイエスに言った。「決して私の足をお洗いにならないでください。」イエスは彼に答えられた。「私があなたを洗わなければ、あなたは私と何の関わりもありません。」 9シモン・ペテロはイエスに言った。「主よ、足だけでなく、手も頭も洗ってください。」 10イエスは彼に言われた。「すでに体を洗った者は、足を洗うだけでよく、全身が清いのです。あなたがたは清いのですが、全員が清いわけではありません。」 11イエスは、ご自分を裏切ろうとしている者を知っておられた。それで、「あなたがた全員が清いわけではありません」と言われたのである。 12イエスは弟子たちの足を洗い、上着を着て、再び席に着くと、彼らに言われた。「私があなたがたにしたことが分かりますか。 13あなたがたは私を『先生』また『主』と呼びます。そう言うのは正しい。私はそのとおりだからです。 14主であり先生である私があなたがたの足を洗ったのですから、あなたがたも互いに足を洗い合うべきです。 15私があなたがたにしたとおり、あなたがたもするようにと、私は模範を示したのです。 16まことに、まことに、あなたがたに告げます。僕はその主人より偉大ではなく、遣わされた者は遣わした者より偉大ではありません。 17これらのことを知り、それを行うなら、あなたがたは幸いです。 18私はあなたがた全員について言っているのではありません。私は自分が選んだ者たちを知っています。しかし、それは『私とともにパンを食べる者が、私に向かってかかとを上げた』という聖書の言葉が実現するためです。 19今、そのことが起こる前に、あなたがたに告げておきます。それが起こった時、私がその者であるとあなたがたが信じるためです。 20まことに、まことに、あなたがたに告げます。私が遣わす者を受け入れる者は、私を受け入れます。私を受け入れる者は、私を遣わされた方を受け入れるのです。」 21イエスはこう言われると、霊の内に心を騒がせ、はっきりと言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げます。あなたがたのうちの一人が私を裏切ります。」 22弟子たちは、だれのことを言われたのか分からず、戸惑いながら互いに顔を見合わせた。 23弟子の一人で、イエスが愛しておられた者が、食卓でイエスの胸もとに寄りかかっていた。 24そこでシモン・ペテロは彼に合図をして、「だれのことを言っておられるのか、尋ねてくれ」と言った。 25彼はそのままイエスの胸もとに寄りかかり、「主よ、それはだれですか」と尋ねた。 26そこでイエスは答えられた。「私がパン切れを浸して与える者が、その人です。」そしてパン切れを浸すと、シモン・イスカリオテの子ユダに与えられた。 27ユダがそのパン切れを受け取ると、サタンが彼の中に入った。そこでイエスは彼に言われた。「しようとしていることを、早くしなさい。」 28しかし、食卓に着いていた者のうち、なぜイエスが彼にそう言われたのか分かる者は一人もいなかった。 29ある者たちは、ユダが金入れを預かっていたので、イエスが「祭りに必要なものを買いなさい」と言われたか、貧しい人々に何か施すように言われたのだと思った。 30そこでユダはそのパン切れを受け取ると、すぐに出て行った。夜であった。 31ユダが出て行くと、イエスは言われた。「今、人の子は栄光を受け、神も人の子によって栄光を受けられました。 32神が人の子によって栄光を受けられたのなら、神もご自身によって人の子に栄光を与え、しかもすぐにお与えになります。 33子どもたちよ、私はもうしばらくあなたがたとともにいます。あなたがたは私を捜すでしょう。私はユダヤ人たちに、『私が行く所に、あなたがたは来ることができない』と言いましたが、今、あなたがたにも同じことを言います。 34私はあなたがたに新しい戒めを与えます。互いに愛し合いなさい。私があなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。 35あなたがたが互いに愛し合うなら、それによって、すべての人はあなたがたが私の弟子であることを知ります。」 36シモン・ペテロがイエスに言った。「主よ、どこへ行かれるのですか。」イエスは答えられた。「私が行く所に、あなたは今ついて来ることはできません。しかし、後にはついて来ます。」 37ペテロはイエスに言った。「主よ、なぜ今はついて行けないのですか。私はあなたのためなら命を捨てます。」 38イエスは彼に答えられた。「私のために命を捨てるのですか。まことに、まことに、あなたに告げます。あなたが三度私を否むまで、鶏は鳴きません。」
第14章
1「あなたがたは心を騒がせてはなりません。神を信じ、私をも信じなさい。 2私の父の家には住まいがたくさんあります。もしそうでなければ、私はあなたがたに言っておいたでしょう。私はあなたがたのために場所を備えに行きます。 3私が行ってあなたがたのために場所を備えたなら、再び来て、あなたがたを私のもとに迎えます。私がいる所に、あなたがたもいるためです。 4あなたがたは、私が行く所も、その道も知っています。」 5トマスがイエスに言った。「主よ、私たちはあなたがどこへ行かれるのか分かりません。どうしてその道が分かるでしょうか。」 6イエスは彼に言われた。「私は道であり、真理であり、命です。私を通してでなければ、だれも父のもとに来ることはありません。 7あなたがたが私を知っていたなら、私の父をも知っていたでしょう。今からあなたがたは父を知り、すでに父を見たのです。」 8フィリポがイエスに言った。「主よ、私たちに父をお示しください。そうすれば十分です。」 9イエスは彼に言われた。「フィリポ、こんなに長い間あなたがたとともにいるのに、あなたは私を知らないのですか。私を見た者は父を見たのです。どうして『私たちに父を示してください』と言うのですか。 10私が父のうちにいて、父が私のうちにおられることを信じないのですか。私があなたがたに告げる言葉は、自分から語っているのではありません。私のうちに住んでおられる父が、ご自分の業を行っておられるのです。 11私が父のうちにいて、父が私のうちにおられると信じなさい。そうでなければ、業そのもののゆえに信じなさい。 12まことに、まことに、あなたがたに告げます。私を信じる者は、私が行う業をその人も行い、これらよりもさらに大きな業を行います。私が父のもとへ行くからです。 13あなたがたが私の名によって求めることは何でも、私はそれを行います。父が子によって栄光を受けられるためです。 14あなたがたが私の名によって何かを求めるなら、私はそれを行います。 15あなたがたが私を愛するなら、私の戒めを守りなさい。 16私は父にお願いします。父はもう一人の助け主をあなたがたに与えてくださいます。その方が永遠にあなたがたとともにいるためです。 17その方は真理の霊です。世はその方を見ることも知ることもないので、受け入れることができません。あなたがたはその方を知っています。その方はあなたがたとともに住み、あなたがたのうちにおられるようになるからです。 18私はあなたがたを孤児のままにはしておきません。あなたがたのところに来ます。 19もうしばらくすると、世はもはや私を見なくなります。しかし、あなたがたは私を見ます。私が生きているので、あなたがたも生きるのです。 20その日には、私が父のうちにいて、あなたがたが私のうちに、私があなたがたのうちにいることが分かります。 21私の戒めを持って、それを守る人こそ、私を愛する人です。私を愛する人は私の父に愛され、私もその人を愛し、私自身をその人に現します。」 22イスカリオテでないほうのユダがイエスに言った。「主よ、私たちにはご自分を現そうとされるのに、世には現そうとされないとは、どういうことですか。」 23イエスは彼に答えられた。「だれでも私を愛するなら、私の言葉を守ります。私の父はその人を愛し、私たちはその人のところに来て、ともに住みます。 24私を愛さない者は、私の言葉を守りません。あなたがたが聞いている言葉は私のものではなく、私を遣わされた父のものです。」 25「私は、あなたがたとともに住んでいる間に、これらのことを話しました。 26しかし、助け主、すなわち父が私の名によって遣わされる聖霊は、あなたがたにすべてのことを教え、私があなたがたに話したすべてのことを思い起こさせてくださいます。 27私はあなたがたに平安を残します。私の平安をあなたがたに与えます。世が与えるように、私は与えるのではありません。心を騒がせてはなりません。恐れてもなりません。 28『私は去って行きますが、あなたがたのところに戻って来ます』と私が言ったのを、あなたがたは聞きました。私を愛しているなら、私が『父のもとへ行く』と言ったことを喜んだでしょう。父は私より偉大だからです。 29今、私はそれが起こる前に、あなたがたに告げました。それが起こった時、あなたがたが信じるためです。 30私はもう、あなたがたと多くは語りません。この世の支配者が来るからです。彼は私に対して何の権利も持っていません。 31しかし、私が父を愛し、父が私に命じられたとおりに行っていることを世が知るためです。立ちなさい。ここから出て行きましょう。」
第15章
1「私はまことのぶどうの木であり、私の父は農夫です。 2父は、私につながっていて実を結ばない枝をすべて取り除き、実を結ぶ枝をすべて刈り込んで、さらに多くの実を結ぶようにされます。 3あなたがたは、私が語った言葉によって、すでに刈り込まれて清くなっています。 4私のうちにとどまりなさい。そうすれば、私もあなたがたのうちにとどまります。枝がぶどうの木につながっていなければ、自分では実を結ぶことができないように、あなたがたも私のうちにとどまっていなければ、実を結ぶことができません。 5私はぶどうの木、あなたがたは枝です。私のうちにとどまり、私もその人のうちにとどまるなら、その人は多くの実を結びます。私から離れては、あなたがたは何もできないからです。 6だれでも私のうちにとどまらないなら、枝のように外へ投げ捨てられて枯れます。人々はそれらを集めて火に投げ入れ、それらは焼かれます。 7あなたがたが私のうちにとどまり、私の言葉があなたがたのうちにとどまるなら、望むことを何でも求めなさい。そうすれば、あなたがたのためにそれが行われます。」 8「あなたがたが多くの実を結ぶことによって、私の父は栄光を受けられ、あなたがたは私の弟子となります。 9父が私を愛されたように、私もあなたがたを愛しました。私の愛のうちにとどまりなさい。 10あなたがたが私の戒めを守るなら、私の愛のうちにとどまります。私が父の戒めを守って、その愛のうちにとどまっているのと同じです。 11私がこれらのことをあなたがたに話したのは、私の喜びがあなたがたのうちにとどまり、あなたがたの喜びが満ちあふれるためです。」 12「私の戒めはこれです。私があなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。 13人が友のために自分の命を捨てること、これより大きな愛はありません。 14私が命じることを何でも行うなら、あなたがたは私の友です。 15私はもう、あなたがたを僕とは呼びません。僕は主人がしていることを知らないからです。私はあなたがたを友と呼びました。父から聞いたことをすべて、あなたがたに知らせたからです。 16あなたがたが私を選んだのではありません。私があなたがたを選び、任命しました。それは、あなたがたが行って実を結び、その実が残るためです。また、あなたがたが私の名によって父に求めるものを、父が与えてくださるためです。」 17「あなたがたが互いに愛し合うように、私はこれらのことを命じます。 18世があなたがたを憎むなら、あなたがたより先に私を憎んだことを知りなさい。 19あなたがたが世のものであったなら、世は自分のものを愛したでしょう。しかし、あなたがたは世のものではなく、私があなたがたを世から選び出したので、世はあなたがたを憎むのです。 20私があなたがたに言った、『僕はその主人より偉大ではない』という言葉を思い出しなさい。人々が私を迫害したなら、あなたがたをも迫害します。私の言葉を守ったなら、あなたがたの言葉をも守ります。 21しかし、人々は私の名のために、これらのことをすべてあなたがたに行います。私を遣わされた方を知らないからです。 22もし私が来て彼らに語らなかったなら、彼らには罪がなかったでしょう。しかし今では、彼らの罪には弁解の余地がありません。 23私を憎む者は、私の父をも憎みます。 24もし私が、ほかのだれも行わなかった業を彼らの間で行わなかったなら、彼らには罪がなかったでしょう。しかし今、彼らはその業を見たうえで、私と私の父を憎みました。 25しかし、これは彼らの律法に書かれている、『彼らは理由もなく私を憎んだ』という言葉が実現するためです。」 26「私が父のもとからあなたがたに遣わす助け主、すなわち父から出る真理の霊が来る時、その方が私についてあかしします。 27あなたがたもあかしします。初めから私とともにいたからです。」
第16章
1「私がこれらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたがつまずかないためです。 2人々はあなたがたを会堂から追放します。実際、あなたがたを殺す者が皆、それによって神に奉仕していると思う時が来ます。 3人々がこれらのことをするのは、父も私も知らなかったからです。 4しかし、私がこれらのことをあなたがたに話したのは、その時が来た時、私が話しておいたことをあなたがたが思い出すためです。初めからこれらのことを話さなかったのは、私があなたがたとともにいたからです。 5しかし今、私は私を遣わされた方のもとへ行きます。それでも、あなたがたのうちだれも『どこへ行くのですか』とは尋ねません。 6むしろ、私がこれらのことを話したために、あなたがたの心は悲しみで満たされています。 7しかし、私はあなたがたに真実を告げます。私が去って行くことは、あなたがたのためになるのです。私が去って行かなければ、助け主はあなたがたのところに来ません。しかし、私が行けば、その方をあなたがたに遣わします。 8その方が来ると、罪について、義について、裁きについて、世にその誤りを悟らせます。 9罪についてとは、彼らが私を信じないからです。 10義についてとは、私が父のもとへ行き、あなたがたがもはや私を見なくなるからです。 11裁きについてとは、この世の支配者が裁かれたからです。」 12「私にはまだ、あなたがたに話すことがたくさんありますが、あなたがたは今、それに耐えることができません。 13しかし、真理の霊であるその方が来ると、あなたがたをすべての真理へと導きます。その方は自分から語るのではなく、聞いたことを語り、これから起こることをあなたがたに告げるからです。 14その方は私に栄光を与えます。私のものを受けて、あなたがたに告げるからです。 15父が持っておられるものはすべて私のものです。それで、その方が私のものを受けてあなたがたに告げると、私は言ったのです。」 16「もうしばらくすると、あなたがたは私を見なくなります。そして、さらにしばらくすると、私を見ます。」 17そこで弟子たちの何人かが互いに言った。「私たちに、『もうしばらくすると、あなたがたは私を見なくなる。そして、さらにしばらくすると、私を見る』、また『私が父のもとへ行くからだ』と言われるが、これはどういうことだろう。」 18彼らは言った。「『もうしばらくすると』と言われるのは、どういうことだろう。何を言っておられるのか分からない。」 19イエスは、彼らが尋ねたがっていることに気づいて、彼らに言われた。「私が『もうしばらくすると、あなたがたは私を見なくなり、さらにしばらくすると、私を見る』と言ったことについて、互いに尋ね合っているのですか。 20まことに、まことに、あなたがたに告げます。あなたがたは泣き悲しみますが、世は喜びます。あなたがたは悲しみますが、その悲しみは喜びに変わります。 21女は出産する時、その時が来たので苦しみます。しかし子どもを産むと、人がこの世に生まれた喜びのために、その苦痛をもう覚えていません。 22ですから、あなたがたも今は悲しんでいます。しかし、私は再びあなたがたに会います。そうすれば、あなたがたの心は喜び、だれもその喜びをあなたがたから奪いません。」 23「その日には、あなたがたは私に何も尋ねません。まことに、まことに、あなたがたに告げます。あなたがたが私の名によって父に求めるものは何でも、父は与えてくださいます。 24今まで、あなたがたは私の名によって何も求めませんでした。求めなさい。そうすれば受けます。あなたがたの喜びが満ちあふれるためです。」 25「私はこれらのことを比喩であなたがたに話しました。しかし、もはや比喩では話さず、父についてはっきり告げる時が来ます。 26その日には、あなたがたは私の名によって求めます。私があなたがたのために父にお願いするとは言いません。 27父ご自身があなたがたを愛しておられるからです。それは、あなたがたが私を愛し、私が神から来たと信じたからです。 28私は父から出て、この世に来ました。そして再び世を去り、父のもとへ行きます。」 29弟子たちはイエスに言った。「見よ、今ははっきりと話し、比喩を使っておられません。 30今、私たちは、あなたがすべてをご存じで、だれかに尋ねてもらう必要がないことを知っています。それによって、あなたが神から来られたと信じます。」 31イエスは彼らに答えられた。「今、信じているのですか。 32見よ、あなたがたがそれぞれ自分の所へ散らされ、私を一人残す時が来ます。いや、すでに来ています。しかし私は一人ではありません。父が私とともにおられるからです。 33私がこれらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたが私にあって平安を得るためです。世にあって、あなたがたには苦難があります。しかし、勇気を出しなさい。私は世に勝ったのです。」
第17章
1イエスはこれらのことを話すと、目を天に上げて言われた。「父よ、時が来ました。あなたの子に栄光を与えてください。子もあなたに栄光を与えるためです。 2あなたは子にすべての人を治める権威を与えられました。それは、あなたが子に与えられたすべての者に、子が永遠の命を与えるためです。 3永遠の命とは、唯一のまことの神であるあなたと、あなたが遣わされたイエス・キリストを知ることです。 4私は地上であなたの栄光を現しました。あなたが私に行うように与えられた業を成し遂げました。 5父よ、今、世が存在する前にあなたとともに持っていたあの栄光をもって、あなたのみもとで私に栄光を与えてください。」 6「私は、あなたが世から選んで私に与えてくださった人々に、あなたの名を現しました。彼らはあなたのものでしたが、あなたは彼らを私に与えてくださいました。彼らはあなたの言葉を守りました。 7今、彼らは、あなたが私に与えてくださったものがすべてあなたから来たことを知っています。 8あなたが私に与えてくださった言葉を、私は彼らに与えたからです。彼らはそれを受け入れ、私があなたから来たことを確かに知り、あなたが私を遣わされたことを信じました。 9私は彼らのためにお願いします。世のためにお願いするのではなく、あなたが私に与えてくださった者たちのためにお願いします。彼らはあなたのものだからです。 10私のものはすべてあなたのものであり、あなたのものは私のものです。そして私は彼らによって栄光を受けています。 11私はもはや世にはいません。しかし彼らは世におり、私はあなたのもとへ行きます。聖なる父よ、あなたが私に与えてくださった御名によって、彼らを守ってください。私たちと同じように、彼らも一つとなるためです。 12私が彼らとともに世にいた間、私はあなたの名によって彼らを守りました。あなたが私に与えてくださった者たちを守ったので、滅びの子のほかには、だれも失われませんでした。それは聖書の言葉が実現するためでした。 13しかし今、私はあなたのもとへ行きます。彼らのうちに私の喜びが満ちあふれるように、私は世にいてこれらのことを話しています。 14私は彼らにあなたの言葉を与えました。世は彼らを憎みました。私が世のものではないのと同じように、彼らも世のものではないからです。 15私は、彼らを世から取り去るようにではなく、悪い者から守ってくださるようにお願いします。 16私が世のものではないのと同じように、彼らも世のものではありません。 17あなたの真理によって彼らを聖別してください。あなたの言葉は真理です。 18あなたが私を世に遣わされたように、私も彼らを世に遣わしました。 19彼らのために、私は自分自身を聖別します。彼ら自身も真理によって聖別されるためです。」 20「私はこの人々のためだけでなく、彼らの言葉によって私を信じる人々のためにもお願いします。 21父よ、あなたが私のうちにおられ、私があなたのうちにいるように、彼らが皆一つとなり、彼らも私たちのうちに一つとなるためです。それは、あなたが私を遣わされたことを世が信じるためです。 22あなたが私に与えてくださった栄光を、私は彼らに与えました。私たちが一つであるように、彼らも一つとなるためです。 23私が彼らのうちに、あなたが私のうちにおられるのは、彼らが完全に一つとなるためです。それによって、あなたが私を遣わされ、私を愛されたように彼らをも愛されたことを、世が知るためです。 24父よ、あなたが私に与えてくださった者たちも、私のいる所に私とともにいることを、私は望みます。あなたが私に与えてくださった私の栄光を、彼らが見るためです。世の基が据えられる前から、あなたは私を愛してくださったからです。 25義なる父よ、世はあなたを知りませんでしたが、私はあなたを知っていました。そしてこの人々は、あなたが私を遣わされたことを知っています。 26私は彼らにあなたの名を知らせました。これからも知らせます。それは、あなたが私を愛してくださった愛が彼らのうちにあり、私も彼らのうちにいるためです。」
第18章
1イエスはこれらのことを話し終えると、弟子たちとともにキデロンの小川の向こうへ出て行かれた。そこには園があり、イエスと弟子たちはその中に入った。 2イエスを裏切ったユダもその場所を知っていた。イエスがたびたび弟子たちとそこで集まっておられたからである。 3そこでユダは、一隊の兵士と、祭司長たちやパリサイ人たちから遣わされた下役たちを引き連れ、灯火やたいまつや武器を持ってそこへ来た。 4イエスは、ご自分の身に起ころうとしていることをすべて知っておられたので、進み出て彼らに言われた。「だれを捜しているのですか。」 5彼らは「ナザレのイエスだ」と答えた。イエスは彼らに言われた。「私がその者です。」イエスを裏切ったユダも、彼らと一緒に立っていた。 6イエスが彼らに「私がその者です」と言われると、彼らは後ずさりして地に倒れた。 7そこでイエスはもう一度、彼らに尋ねられた。「だれを捜しているのですか。」彼らは「ナザレのイエスだ」と言った。 8イエスは答えられた。「私がその者だと言ったではありませんか。私を捜しているのなら、この人たちは行かせなさい。」 9これは、イエスが語られた「あなたが私に与えてくださった者たちのうち、一人も失いませんでした」という言葉が実現するためであった。 10するとシモン・ペテロは剣を持っていたので、それを抜き、大祭司の僕に打ちかかって、その右の耳を切り落とした。その僕の名はマルコスであった。 11そこでイエスはペテロに言われた。「剣をさやに収めなさい。父が私に与えられた杯を、どうして飲まずにいられるでしょうか。」 12そこで一隊の兵士と千人隊長、ユダヤ人たちの下役たちはイエスを捕らえて縛り、 13まずアンナスのもとへ連れて行った。アンナスは、その年の大祭司カヤパのしゅうとだったからである。 14カヤパは、一人の人が民のために死ぬほうがよいとユダヤ人たちに助言した者であった。 15シモン・ペテロともう一人の弟子が、イエスについて行った。その弟子は大祭司に知られていたので、イエスとともに大祭司の屋敷の中庭に入った。 16しかし、ペテロは外で門のところに立っていた。そこで、大祭司に知られていたもう一人の弟子が出て来て、門番の女に話し、ペテロを中に入れた。 17すると門番の女中がペテロに言った。「あなたもこの人の弟子の一人ではありませんか。」ペテロは「違う」と言った。 18寒かったので、僕たちと下役たちは炭火を起こし、立って暖まっていた。ペテロも彼らと一緒に立って暖まっていた。 19そこで大祭司はイエスに、弟子たちのことと教えのことを尋ねた。 20イエスは彼に答えられた。「私は世に向かって公然と語りました。いつも会堂や宮で、すべてのユダヤ人が集まる所で教えました。隠れて語ったことは何もありません。 21なぜ私に尋ねるのですか。私が彼らに何を話したか、聞いた人々に尋ねなさい。見よ、彼らは私が話したことを知っています。」 22イエスがこう言われると、そばに立っていた下役の一人がイエスを平手で打ち、「大祭司にそのように答えるのか」と言った。 23イエスは彼に答えられた。「私が悪いことを言ったのなら、何が悪いのかを示しなさい。しかし正しいことを言ったのなら、なぜ私を打つのですか。」 24アンナスはイエスを縛ったまま、大祭司カヤパのもとへ送った。 25シモン・ペテロは立って暖まっていた。すると人々は彼に言った。「あなたもあの人の弟子の一人ではないだろうな。」ペテロはそれを否み、「違う」と言った。 26大祭司の僕の一人で、ペテロに耳を切り落とされた者の親族が言った。「あなたがあの人と一緒に園にいるのを、私は見なかったか。」 27ペテロは再び否んだ。するとすぐに鶏が鳴いた。 28人々はイエスをカヤパのもとから総督官邸へ連れて行った。早朝であった。彼ら自身は汚れずに過越の食事をするため、総督官邸には入らなかった。 29そこでピラトは彼らのところへ出て来て言った。「この人に対して、どのような訴えを起こすのか。」 30彼らは答えた。「この男が悪事を働く者でなかったなら、あなたに引き渡しはしませんでした。」 31そこでピラトは彼らに言った。「あなたがたがこの男を引き取り、自分たちの律法に従って裁きなさい。」するとユダヤ人たちは彼に言った。「私たちには、だれかを死刑にすることは許されていません。」 32これは、ご自分がどのような死に方で死ぬかを示して語られた、イエスの言葉が実現するためであった。 33そこでピラトは再び総督官邸に入り、イエスを呼んで言った。「あなたはユダヤ人の王なのか。」 34イエスは彼に答えられた。「あなたは自分からそう言うのですか。それとも、ほかの人々が私についてあなたに話したのですか。」 35ピラトは答えた。「私はユダヤ人ではない。あなたの同胞と祭司長たちが、あなたを私に引き渡したのだ。あなたは何をしたのか。」 36イエスは答えられた。「私の国はこの世のものではありません。もし私の国がこの世のものであったなら、私がユダヤ人たちに引き渡されないように、私の僕たちは戦ったでしょう。しかし今、私の国はここから来たものではありません。」 37そこでピラトはイエスに言った。「それでは、あなたは王なのか。」イエスは答えられた。「あなたの言うとおり、私は王です。私はこのために生まれ、このために世に来ました。真理についてあかしするためです。真理に属する者は皆、私の声を聞きます。」 38ピラトはイエスに言った。「真理とは何か。」こう言ってから、ピラトは再びユダヤ人たちのところへ出て行き、彼らに言った。「私はこの男に何の罪状も認めない。 39しかし、過越の祭りには、私があなたがたのために一人を釈放する慣例がある。それで、ユダヤ人の王を釈放してほしいか。」 40すると彼らは皆、再び叫んだ。「この男ではない。バラバを釈放しろ。」バラバは強盗であった。
第19章
1そこでピラトはイエスを引き取り、むちで打たせた。 2兵士たちは茨を編んで冠を作り、イエスの頭にかぶせ、紫の衣を着せた。 3そして「ユダヤ人の王、万歳」と繰り返し言いながら、イエスを平手で打ち続けた。 4ピラトは再び外へ出て行き、彼らに言った。「見よ、私はこの男をあなたがたの前に連れ出す。私がこの男に何の罪状も認めないことを、あなたがたに知らせるためだ。」 5そこでイエスは、茨の冠をかぶり、紫の衣を着て、外へ出て来られた。ピラトは彼らに言った。「見よ、この人だ。」 6祭司長たちと下役たちはイエスを見ると、「十字架につけろ。十字架につけろ」と叫んだ。ピラトは彼らに言った。「あなたがたがこの男を引き取り、十字架につけなさい。私はこの男に何の罪状も認めない。」 7ユダヤ人たちは彼に答えた。「私たちには律法があり、私たちの律法によれば、この男は死ななければなりません。自分を神の子としたからです。」 8ピラトはこの言葉を聞くと、ますます恐れた。 9そして再び総督官邸に入り、イエスに「あなたはどこから来たのか」と言った。しかし、イエスは何もお答えにならなかった。 10そこでピラトはイエスに言った。「私に答えないのか。私にはあなたを釈放する権力も、十字架につける権力もあることを知らないのか。」 11イエスは答えられた。「上から与えられていなければ、あなたには私に対する何の権限もないでしょう。ですから、私をあなたに引き渡した者には、より大きな罪があります。」 12これを聞いて、ピラトはイエスを釈放しようと努めた。しかしユダヤ人たちは叫んだ。「この男を釈放するなら、あなたはカエサルの友ではない。自分を王とする者は皆、カエサルに逆らう者だ。」 13そこでピラトはこれらの言葉を聞くと、イエスを外へ連れ出し、「敷石」と呼ばれ、ヘブル語では「ガバタ」と呼ばれる場所で、裁判の席に着いた。 14その日は過越の祭りの備えの日で、時刻は第六時ごろであった。ピラトはユダヤ人たちに言った。「見よ、あなたがたの王だ。」 15彼らは叫んだ。「連れて行け。連れて行け。十字架につけろ。」ピラトは彼らに言った。「あなたがたの王を十字架につけるのか。」祭司長たちは答えた。「私たちにはカエサルのほかに王はいません。」 16そこでピラトは、イエスを十字架につけさせるために彼らに引き渡した。彼らはイエスを引き取り、連れて行った。 17イエスはご自分で十字架を背負い、「どくろの場所」と呼ばれ、ヘブル語で「ゴルゴタ」と呼ばれる所へ出て行かれた。 18そこで彼らはイエスを十字架につけ、イエスとともにほかの二人を、一人ずつ両側に、イエスを真ん中にして十字架につけた。 19ピラトは罪状書きも書いて、十字架の上に掲げた。そこには「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」と書かれていた。 20多くのユダヤ人がこの罪状書きを読んだ。イエスが十字架につけられた場所は都に近く、それがヘブル語、ラテン語、ギリシャ語で書かれていたからである。 21そこでユダヤ人の祭司長たちはピラトに言った。「『ユダヤ人の王』と書かず、『この男は「私はユダヤ人の王だ」と言った』と書いてください。」 22ピラトは答えた。「私が書いたことは、書いたままにしておく。」 23兵士たちはイエスを十字架につけると、その衣を取って四つに分け、それぞれの兵士に一つずつ与えた。下着も取ったが、その下着には縫い目がなく、上から下まで一枚織りであった。 24そこで彼らは互いに言った。「これは裂かずに、だれのものになるか、くじを引いて決めよう。」これは、次の聖書の言葉が実現するためであった。「彼らは私の衣を分け合い、私の服をくじ引きにした。」兵士たちはこのように行った。 25イエスの十字架のそばには、イエスの母、その母の姉妹、クロパの妻マリア、マグダラのマリアが立っていた。 26イエスは母と、ご自分が愛しておられた弟子がそばに立っているのを見て、母に言われた。「婦人よ、見よ、あなたの息子です。」 27それから、その弟子に言われた。「見よ、あなたの母です。」その時から、その弟子は彼女を自分の家に迎えた。 28この後、イエスはすべてのことがすでに終わったのを見て、聖書の言葉が実現するために、「渇く。」と言われた。 29そこには酸いぶどう酒をいっぱい入れた器が置いてあった。そこで人々は、そのぶどう酒をたっぷり含ませた海綿をヒソプにつけ、イエスの口もとに差し出した。 30イエスはその酸いぶどう酒を受けると、「成し遂げられた。」と言われた。そして頭を垂れ、ご自分の霊をお渡しになった。 31その日は備えの日であった。その安息日は特別な日だったので、ユダヤ人たちは安息日に遺体を十字架に残しておかないため、彼らの脚を折って、遺体を取り降ろすようピラトに願った。 32そこで兵士たちが来て、イエスとともに十字架につけられた最初の者と、もう一人の者の脚を折った。 33しかしイエスのところに来て、すでに死んでおられるのを見ると、その脚は折らなかった。 34けれども、兵士の一人が槍でイエスの脇腹を突き刺すと、すぐに血と水が流れ出た。 35それを見た者があかしした。そのあかしは真実である。彼は自分が真実を語っていることを知っている。それは、あなたがたも信じるためである。 36これらのことが起こったのは、「その骨は一本も折られない」という聖書の言葉が実現するためであった。 37また別の聖書の言葉には、「彼らは自分たちが突き刺した者を見上げる」とある。 38これらのことの後、アリマタヤのヨセフが、イエスの体を引き取らせてほしいとピラトに願った。彼はイエスの弟子であったが、ユダヤ人たちを恐れて、そのことを隠していた。ピラトは許可した。そこで彼は来て、イエスの体を引き取った。 39初め夜にイエスのもとへ来たニコデモも、没薬とアロエを混ぜたものを百ローマ・ポンドほど持って来た。 40そこで彼らはイエスの体を取り、ユダヤ人の埋葬の習慣に従って、香料とともに亜麻布で包んだ。 41イエスが十字架につけられた場所には園があり、その園には、まだだれも葬られたことのない新しい墓があった。 42その日はユダヤ人の備えの日であり、その墓が近かったので、彼らはそこにイエスを納めた。
第20章
1週の初めの日、まだ暗いうちに、マグダラのマリアが墓へ行くと、墓から石が取り除かれているのを見た。 2そこで彼女は走ってシモン・ペテロと、イエスが愛しておられたもう一人の弟子のところへ行き、彼らに言った。「だれかが墓から主を取り去りました。どこに主を置いたのか、私たちには分かりません。」 3そこでペテロともう一人の弟子は外へ出て、墓に向かった。 4二人は一緒に走ったが、もう一人の弟子がペテロより速く走り、先に墓に着いた。 5彼は身をかがめて中をのぞき、亜麻布が置いてあるのを見たが、中には入らなかった。 6その後を追ってシモン・ペテロも来て、墓の中に入った。彼は亜麻布が置いてあるのと、 7イエスの頭に巻かれていた布が、亜麻布と一緒ではなく、別の所に巻いたまま置いてあるのを見た。 8そこで、先に墓に着いたもう一人の弟子も中に入り、見て、信じた。 9彼らはまだ、イエスが死者の中からよみがえらなければならないという聖書の言葉を理解していなかったのである。 10それから弟子たちは、再び自分たちの家へ帰って行った。 11しかしマリアは、墓の外に立って泣いていた。泣きながら身をかがめて墓の中をのぞくと、 12白い衣を着た二人の御使いが、イエスの体が置かれていた所に、一人は頭のほうに、一人は足のほうに座っているのが見えた。 13彼らはマリアに言った。「婦人よ、なぜ泣いているのですか。」彼女は彼らに言った。「だれかが私の主を取り去りました。どこに主を置いたのか、私には分かりません。」 14こう言ってから、彼女は後ろを振り向き、イエスが立っておられるのを見た。しかし、それがイエスだとは分からなかった。 15イエスは彼女に言われた。「婦人よ、なぜ泣いているのですか。だれを捜しているのですか。」彼女は園の番人だと思い、その人に言った。「あなたがあの方を運び去ったのでしたら、どこに置いたのか教えてください。私が引き取ります。」 16イエスは彼女に言われた。「マリア。」彼女は振り向いて、イエスに「ラボニ」と言った。これは「先生」という意味である。 17イエスは彼女に言われた。「私にすがりついていてはなりません。私はまだ父のもとへ上っていないからです。私の兄弟たちのところへ行き、『私は、私の父であり、あなたがたの父である方、私の神であり、あなたがたの神である方のもとへ上ります』と告げなさい。」 18マグダラのマリアは弟子たちのところへ行き、自分が主を見たこと、また主がこれらのことを彼女に言われたことを告げた。 19その日、すなわち週の初めの日の夕方、弟子たちが集まっていた所の戸は、ユダヤ人たちを恐れて鍵がかけられていた。そこへイエスが来て真ん中に立ち、彼らに言われた。「あなたがたに平安があるように。」 20こう言ってから、イエスは彼らに手と脇腹を見せられた。弟子たちは主を見て喜んだ。 21そこでイエスは再び彼らに言われた。「あなたがたに平安があるように。父が私を遣わされたように、私もあなたがたを遣わします。」 22こう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。 23あなたがたがだれかの罪を赦すなら、その罪は赦されています。だれかの罪を赦さずにおくなら、その罪は赦されずに残っています。」 24十二人の一人で、ディディモと呼ばれるトマスは、イエスが来られた時、彼らと一緒にいなかった。 25そこで、ほかの弟子たちは彼に言った。「私たちは主を見た。」しかし彼は言った。「私はその手に釘の跡を見て、その釘の跡に指を入れ、その脇腹に手を入れなければ、決して信じない。」 26八日後、弟子たちは再び家の中におり、トマスも彼らと一緒にいた。戸には鍵がかけられていたが、イエスが来て真ん中に立ち、言われた。「あなたがたに平安があるように。」 27それからトマスに言われた。「あなたの指をここに伸ばして、私の手を見なさい。手を伸ばして、私の脇腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」 28トマスはイエスに答えた。「私の主、私の神よ。」 29イエスは彼に言われた。「あなたは私を見たので、信じたのです。見ないで信じた人々は幸いです。」 30イエスは弟子たちの前で、この書に記されていないほかの多くのしるしも行われた。 31しかし、これらのことが記されたのは、イエスがキリスト、神の子であるとあなたがたが信じ、信じることによってイエスの名にあって命を得るためである。
第21章
1これらのことの後、イエスはティベリアス湖畔で、再び弟子たちにご自分を現された。その現れ方はこうであった。 2シモン・ペテロ、ディディモと呼ばれるトマス、ガリラヤのカナ出身のナタナエル、ゼベダイの息子たち、それにほかの二人の弟子が一緒にいた。 3シモン・ペテロが彼らに「私は漁に行く」と言った。彼らは「私たちも一緒に行こう」と言った。彼らはすぐに出て行って舟に乗り込んだ。しかし、その夜は何も捕れなかった。 4すでに夜が明けたころ、イエスが岸辺に立っておられた。しかし弟子たちには、それがイエスだと分からなかった。 5そこでイエスは彼らに言われた。「子どもたちよ、何か食べる物がありますか。」彼らは「ありません」と答えた。 6イエスは彼らに言われた。「舟の右側に網を投げなさい。そうすれば見つかります。」そこで彼らは網を投げた。すると魚があまりに多く、網を引き上げることができなかった。 7そこで、イエスが愛しておられた弟子がペテロに言った。「主だ。」シモン・ペテロは主だと聞くと、裸だったので上着を身にまとい、湖に飛び込んだ。 8ほかの弟子たちは小舟でやって来た。陸から二百キュビトほどしか離れていなかったので、魚でいっぱいの網を引いて来たのである。 9彼らが陸に上がると、そこに炭火があり、その上に魚とパンが置いてあるのが見えた。 10イエスは彼らに言われた。「今捕った魚を何匹か持って来なさい。」 11シモン・ペテロは舟に上がり、百五十三匹もの大きな魚でいっぱいの網を陸へ引き上げた。それほど多かったのに、網は破れなかった。 12イエスは彼らに言われた。「さあ、朝食を取りなさい。」弟子たちは、主であることが分かっていたので、「あなたはどなたですか」とあえて尋ねる者はいなかった。 13イエスは来てパンを取り、彼らに与えられた。魚も同じようにされた。 14イエスが死者の中からよみがえった後、弟子たちに現れたのは、これで三度目であった。 15彼らが朝食を終えると、イエスはシモン・ペテロに言われた。「ヨナの子シモン、あなたは、これら以上に私を愛していますか。」ペテロはイエスに言った。「はい、主よ。私があなたを慕っていることは、あなたがご存じです。」イエスは彼に言われた。「私の子羊を養いなさい。」 16イエスは再び二度目に彼に言われた。「ヨナの子シモン、私を愛していますか。」ペテロはイエスに言った。「はい、主よ。私があなたを慕っていることは、あなたがご存じです。」イエスは彼に言われた。「私の羊を世話しなさい。」 17イエスは三度目に彼に言われた。「ヨナの子シモン、私を愛していますか。」ペテロは、イエスが三度目に「私を慕っていますか」と尋ねられたので、悲しくなった。そしてイエスに言った。「主よ、あなたはすべてをご存じです。私があなたを慕っていることを、あなたはご存じです。」イエスは彼に言われた。「私の羊を養いなさい。 18まことに、まことに、あなたに告げます。あなたは若かった時、自分で帯を締め、行きたい所を歩きました。しかし年を取ると、あなたは両手を伸ばし、ほかの人があなたに帯を締め、行きたくない所へ連れて行きます。」 19イエスは、ペテロがどのような死に方で神に栄光を与えるかを示すために、こう言われたのである。そして、こう言ってから彼に言われた。「私に従いなさい。」 20ペテロが振り向くと、一人の弟子がついて来るのが見えた。それはイエスが愛しておられた弟子で、夕食の時にもイエスの胸もとに寄りかかり、「主よ、あなたを裏切ろうとしているのはだれですか」と尋ねた者であった。 21ペテロは彼を見て、イエスに言った。「主よ、この人はどうなるのですか。」 22イエスは彼に言われた。「私が来るまで彼がとどまることを私が望んだとしても、それがあなたに何の関わりがありますか。あなたは私に従いなさい。」 23そこで、この弟子は死なないという言葉が兄弟たちの間に広まった。しかしイエスは、彼が死なないと言われたのではなく、「私が来るまで彼がとどまることを私が望んだとしても、それがあなたに何の関わりがありますか」と言われたのである。 24これらのことについてあかしし、これらのことを書いたのは、この弟子である。われわれは、彼のあかしが真実であることを知っている。 25イエスが行われたことは、ほかにもたくさんある。それを一つ一つ書き記したなら、この世界さえ、書かれる書物を収めきれないだろうと私は思う。
フリーダム・バイブル(草案・パブリックドメイン・eBible.org)。本文はeBible.orgより、文言を変えずに掲載しています(脚注は省略)。
第1章
1元始に御言あり、御言神の御許に在り、御言は神にてありたり。 2是元始に神の御許に在たるものにして、 3萬物之に由りて成れり、成りしものの一も、之に由らずして成りたるはあらず。 4之がうちに生命ありて、生命又人間の光たりしが、 5光闇に照ると雖も、闇之を曉らざりき。 6神より遣はされて、名をヨハネと云へる人ありしが、 7其來りしは證明の爲にして、光を證明し、凡ての人をして己に籍りて信ぜしめん爲なりき。 8彼は光に非ずして、光を證明すべき者たりしなり。 9[御言こそ、]此世に出來る凡ての人を照らす眞の光なりけれ。 10曾て世に在り、世又之に由りて成りたれども、世之を知らず、 11己が方に來りしも、其族之を承けざりき。 12然れど之を承けし人々には各神の子となるべき權能を授けたり。是卽ち其名を信ずる者、 13血統に由らず、肉の意に由らず、人の意に由らず、神に由りて生れ奉りたる者なり。 14斯て御言は肉と成りて、我等の中に宿り給へり、我等は其光榮を見奉りしが、其は父より來れる獨子の如き光榮なりき、卽ち恩寵と眞理とに滿ち給ひしなり。 15ヨハネは彼に就きて證明し、呼はりて曰く、我より後に來るべき人は、我に先ちて存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて我が曾て指示ししは是なり、と。 16斯て我等は皆其充滿せる所より授かりて、恩寵に恩寵を加へられたり。 17蓋律法はモイゼを以て與へられたるも、恩寵と眞理とはイエズス、キリストを以て成りたるなり。 18誰も曾て神を見奉りし人はあらず、父の御懷に在す獨子の自ら說き顯し給ひしなり。 19抑ヨハネの證明は次の如し。ユデア人がエルザレムより司祭及びレヴィ人等を彼に遣はして、汝は誰なるぞ、と問はしめし時、 20彼は宣言せしが、否む事なくして、我キリストに非ずと宣言せり。 21彼等、然らば何ぞや、汝はエリアなるか、と問ひしに、彼、然らずと云ひ、[彼]預言者なるか、と云ひしに、否と答へたり。 22斯て彼等、汝は誰なるぞ、我等を遣はしし人々に答ふる事を得しめよ、自ら己を何と稱するぞ、と云ひしかば、 23彼云ひけるは、我は預言者イザヤの云ひし如く、「汝等主の道を平にせよ」と野に呼はる者の聲なり、と。 24此遣はされし人々はファリザイの徒なりしが、 25又ヨハネに問ひて、然らば汝はキリストにも非ず、エリアにも非ず、[彼]預言者にも非ざるに、何ぞ洗するや、と云ひしに 26ヨハネ答へて云ひけるは、我は水にて洗すれども、汝等の中に、汝等の知らざる一個の人立てり、 27是ぞ我後に來るべき者、我より先にせられたる者にして、我は其履の紐を解くにだも堪へず、と。 28此等の事は、ヨハネの洗しつつありしヨルダン[河]の彼方、ベタニアにて成りき。 29明日ヨハネ、イエズスの己に來り給ふを見て云ひけるは、看よ神の羔を、看よ世の罪を除き給ふ者を。 30我が曾て、我より後に來る者あり、我より先に存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて指示ししは是なり。 31我原之を知らざりしかど、水にて洗しつつ來れるは、彼をイスラエルに於て顯れしめん爲なり、と。 32ヨハネ又證明して云ひけるは、我は[聖]靈が鳩の如く天より降りて彼の上に止り給ふを見たり。 33我原彼を知らざりしかど、我を遣はして水にて洗せしめ給へえるもの、我に曰ひけらく、汝[聖]靈の降りて人の上に止り給ふを見ば、是ぞ聖靈にて洗する者なる、と。 34斯て我之を目擊して、彼が神の御子たる事を證明したるなり、と。 35翌日ヨハネ又弟子兩人と共に立ち居て、 36イエズスの步み給ふを見、看よ神の羔を、と云ひしかば、 37二人の弟子斯く語るを聞きて、イエズスに隨行きしに、 38イエズス回顧りて其從へるを見、之に曰ひけるは、汝等何を求むるぞ、と。彼等、ラビ――譯せば師よ――何處に住み給ふぞ、と云ひしかば、 39イエズス、來て見よ、と曰へり、彼等往きてイエズスの住み給ふ處を見、其日は其處に留れり。時は四時頃なりき。 40シモンペトロの兄弟アンデレアは、ヨハネより聞きてイエズスに從ひし兩人の其一人なりしが、 41先其兄弟シモンに出逢ひて之に云ひけるは、我等メッシア――譯せばキリスト――に遇へり、と。 42斯て之をイエズスの許に連來りしに、イエズス之を熟視めて曰ひけるは、汝はヨナの子シモンなり、ケファ――譯せばペトロ――と名けられん、と。 43次日ガリレアに往かんとして、フィリッポに遇ひ給ひしかば、イエズス、我に從へ、と曰ひしが、 44フィリッポは、アンデレアとペトロとの故鄕なる、ベッサイダの人なりき。 45フィリッポナタナエルに遇ひて云ひけるは、我等モイゼの律法にも預言者等にも錄されし人に遇へり、卽ちナザレトのヨゼフの子イエズスなり、と。 46ナタナエル、何等の善き者かナザレトより出づるを得んや、と云ひしかば、フィリッポ、來て見よ、と云へり。 47イエズスナタナエルの己に來るを見給ひ、之を指して、是實に野心なきイスラエル人なり、と曰へば、 48ナタナエル、如何にして我を知り給ふぞ、と云ひしに、イエズス答へて曰ひけるは、フィリッポが汝を呼ぶ前に、我汝が無花果樹の下に居るを見たり、と。 49ナタナエル答へて、ラビ汝は神の御子なり、イスラエルの王なり、と云ひしかば、 50イエズス答へて曰ひけるは、汝が信じたるは、我汝が無花果樹の下に居るを見たりと告げしによりてなり。汝、之よりも更に大いなる事を見ん、と。 51又之に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等は天開けて神の使等が人の子の上に陟降するを見るべし、と。
第2章
1三日目にガリレアのカナに婚筵ありて、イエズスの母其處に居れるに、 2イエズスも弟子等と共に招かれ給へり。 3酒盡きければ、母イエズスに向ひ、彼等酒なし、と云ひしに、 4イエズス、婦人よ、其は我と汝とに何かある、我時未だ來らずと曰ひしかば、 5母は給仕等に向ひて、彼が汝等に言ふ所は、何にもあれ之を爲せ、と言置けり。 6然てユデア人が潔の習慣に隨ひて、其處に二三斗入の石甕六個備へありしが、 7イエズス給仕等に、水を甕に滿てよ、と曰ひければ、彼等口まで滿たししに、 8イエズス又、今汲取りて筵司に持行け、と曰ひしかば卽ち持行けり。 9筵司、酒に化したる水を嘗むるや、給仕等は其由りて來る所を知れども己は之を知らざれば、新郞を呼び、 10之に向ひて、誰も先佳酒を出して、人々の醉へるに至りて劣れる物を出すに、汝は佳酒を今まで取置けるよ、と云へり。 11是イエズスの奇蹟の始にして、之をガリレアのカナに行ひ、己が光榮を顯し給ひしかば、弟子等之を信仰せり。 12其後イエズス、母、兄弟、及び弟子等と共に、カファルナウムに下り給ひしが、皆其處に留る事久しからざりき。 13ユデア人の過越祭近づきければ、イエズスエルザレムに上り、 14[神]殿の内にて牛、羊、鴿を賣る人々、及び坐せる兩替屋等を見給ひしかば、 15繩を以て鞭めきたる物を作り、彼等を悉く[神]殿より逐出し、羊、牛をも逐出し、兩替屋の金を抛散して其案を覆し、 16鴿を賣る人々に向ひて、此物等を取退けよ、我父の家を商買の家と爲すな、と曰へり。 17弟子等は、錄して「汝の家に對する熱心は我を食盡せり」とあるを思出せり。 18斯てユデア人答へてイエズスに云ひけるは、汝如何なる徵を現して此等の事を爲すぞ、と。 19イエズス答へて、汝等此[神]殿を毀て、我三日の中に之を起さん、と曰ひしかば、 20ユデア人云ひけるは、此[神]殿は、造るに四十六年を要せしに、汝三日の中に之を起すべきか、と。 21但しイエズスは、己が體の[神]殿を斥して曰ひしなり。 22然れば死者の中より復活し給へる後、弟子等此曰ひたりし事を思出して、聖書とイエズスの曰ひし御言とを信ぜり。 23イエズス過越の祭日に當りてエルザレムに居給ふ間、多くの人、其爲し給へる奇蹟を視て、御名を信じたり。 24然れどイエズスは、此等に身を打任せ給はざりき、其は自ら凡ての人を知り、 25又人の心に在る事を知り給へば、人に就て他人の證明を要し給はざる故なり。
第3章
1爰にファリザイ人の中にニコデモと呼ばれて、ユデア人の長だちたる者ありしが、 2夜イエズスの許に至りて云ひけるは、ラビ、我等は汝が神より來りたる敎師なる事を知れり、其は何人も、神之と共に在すに非ざれば、汝の爲せる如き奇蹟を行ひ得ざればなり。 3イエズス答へて曰ひけるは、誠に眞に汝に告ぐ、人新に生るるに非ずば、神の國を見ること能はず。 4ニコデモ云ひけるは、人既に老いたるに爭でか生るる事を得べき、豈再び母の胎内に入て新に生るるを得んや。 5イエズス答へ給ひけるは、誠に實に汝に告ぐ、人は水と靈とより新に生るるに非ずば、神の國に入る事能はず。 6肉より生れたる者は肉なり、靈より生れたる者は靈なり。 7汝等再び生れざるべからずと我が汝に告げたるを怪しむこと勿れ。 8風は己が儘なる處に吹く、汝其聲を聞くと雖も、何處より來りて何處に往くかを知らず、總て靈より生れたる者も亦然り、と。 9ニコデモ答へて、此等の事如何にしてか成り得べき、と云ひしかば、 10イエズス答へて曰ひけるは、汝はイスラエルに於て師たる者なるに、是等の事を知らざるか。 11誠に實に汝に告ぐ、我等は知れる所を語り、見たる所を證す、然れど汝等は其證言を承けざるなり。 12我が地上の事を語りてすら汝等は信ぜざるものを、天上の事を語るとも爭でか之を信ぜんや。 13天より降りたるもの、卽ち天に在る人の子の外は、誰も天に昇りしものなし。 14又モイゼが荒野にて蛇を揚げし如く、人の子も必ず揚げらるべし、 15是總て之を信仰する人の、亡びずして永遠の生命を得ん爲なり。 16蓋神の此世を愛し給へる事は、御獨子を賜ふ程にして、是總て之を信仰する人の亡びずして永遠の生命を得ん爲なり。 17卽ち神が御子を此世に遣はし給ひしは、世を審判せしめん爲に非ず、世が彼に由りて救はれん爲なり。 18彼を信仰する人は審判せられず、信ぜざる人は既に審判せられたり、其は神の御獨子の御名を信ぜざればなり。 19審判とは是なり、卽ち光既に世に來りたるに、人は己の行の惡き爲に、光よりも寧暗を愛したるなり。 20總て惡を爲す人は光を憎み、己が行を責められじとて光に來らず。 21然れど眞理を行ふ人は、己が行の顯れん爲に光に來る、其は神の内に行はれたればなり、と。 22其後イエズス弟子等とユデア地方に至り、共に留りて洗し居給ひしが、 23ヨハネもサリムに近きエンノンに水多かりければ、其處にて洗しつつあり、人々來りて洗せられ居たり。 24卽ちヨハネ未だ監獄に入れられざりしなり。 25然るにヨハネの弟子等とユデア人との間に、洗禮に就きて議論起りしかば、 26彼等ヨハネの許に來りて云ひけるは、ラビ、ヨルダン[河]の彼方に汝と共に在りし時、汝より證明せられたる彼人は、今自ら洗して、人皆之に趣くなり、と。 27ヨハネ答へて云ひけるは、人は天より賜はりたるに非ずば、何物をも自ら受くる能はず、 28汝等自ら我に就きて證する如く、我曾て、我はキリストに非ず、唯其先に遣はされたるのみ、と告げたりき。 29新婦を有てる人こそ新郞なれ。然て新郞の友として立ちて之に聞く人は、新郞の聲の爲に喜びに喜ぶ。然れば我此喜は圓滿なり。 30彼は榮ゆべく我は衰ふべし。 31上より來れる人は衆人に上たり、地よりの人は地に屬して地上の事を語る、天より來れる人は衆人に上たるなり。 32彼は其親ら見且聞きし所を證すと雖も、一人も其證言を承けず、 33其證言を承けたる人は、神の眞實にて在す事を證印せる者なり。 34卽ち神の遣はし給ひし者は神の御言を語る、神は[聖]靈を賜ふに制限なければなり。 35父は御子を愛して萬物を其手に賜へり。 36御子を信仰する人は永遠の生命を有す。然れど御子を信ぜざる人は生命を見ざるべく、神の怒却て彼が上に止る、と。
第4章
1時にイエズス、己が弟子を造り人を洗する事、ヨハネよりも多き由の、ファリザイ人の耳に入りしを知り給ひしかば、 2――但洗せるはイエズスに非ずして、其の弟子等なりき―― 3ユデアを去りて再びガリレアに往き給へり。 4然るにサマリアを通らざるを得ざりしければ、 5ヤコブが其子ヨゼフに與へし土地に近き、サマリアのシカルと云へる町に至り給ひしが、 6此處にヤコブの井ありけるに、イエズス旅に疲れて、其儘井の上に坐し給へり、時は十二時頃なりき。 7爰にサマリアの一人の婦、水汲みに來りしかば、イエズス之に向ひて、我に飲ませよ、と曰へり。 8是弟子等は食物を買はんとて町に往きたればなり。 9其時サマリアの婦云ひけるは、汝はユデア人なるに、何ぞサマリアの婦なる我に飲物を求むるや、と。是ユデア人はサマリア人と交らざる故なり。 10イエズス答へて曰ひけるは、汝若神の賜を知り、又我に飲ませよと汝に云へる者の誰なるかを知らば、必ず彼に求め、彼は活ける水を汝に與へしならん。 11婦云ひけるは、君よ、汝は汲む物を有たず、井は深し、然るを何處よりして活ける水を有てるぞ。 12我等が父ヤコブ此井を我等に與へ、自らも其子等も其家畜も之より飲みしが、汝は彼より優れる者なるか。 13イエズス答へて曰ひけるは、總て此水を飲む者は復渴くべし、然れども我が與へんとする水を飲む者は永遠に渴かず、 14我が之に與ふる水は、却て彼に於て、永遠の生命に湧出づる水の源となるべし。 15婦云ひけるは、君よ、我が渴く事なく此處に汲みにも來らざる樣、其水を我に與へよ。 16イエズス曰ひけるは、往きて夫を呼來れ。 17婦答へて、我は夫なし、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、善くこそ夫なしと云ひたれ、 18夫は五人まで有ちたりしに、今あるは汝の夫に非ず、汝が然云ひしは實なり。 19婦云ひけるは、君よ、我觀るに、汝は預言者なり。 20我等が先祖は此山にて禮拜したるに、汝等は云ふ、禮拜すべき處はエルザレムなりと。 21イエズス曰ひけるは、婦よ、我を信ぜよ、汝等が此山となくエルザレムとなく、父を禮拜せん時來るなり。 22汝等は知らざる者を禮拜し、我等は知りたる者を禮拜す、救はユデア人の中より出づればなり。 23然て眞の禮拜者が、靈と實とを以て父を禮拜すべき時來る、今既に其時なり。其は父も、斯く己を禮拜する人を求め給へばなり。 24神は靈にて在せば、之を禮拜する人は、靈と實とを以て禮拜せざるべからず、と。 25婦イエズスに謂ひけるは、我はメッシア(所謂キリスト)の來るを知る。然れば彼來らば萬事を我等に告ぐべし。 26イエズス之に曰ひけるは、汝と語りつつある我、卽ち其なり、と。 27軈て弟子等來り、イエズスの婦と語り給へるを怪しみしかど、誰も何をか求め何故彼と語り給ふ、と云ふ者なかりき。 28斯て婦、其水甁を遺して町に往き、其處なる人々に向ひ、 29來て見よ、我が爲しし事を殘らず我に云ひたる人を、是はキリストならんか、と云ひしかば、 30彼等町より出でてイエズスの許に來れり。 31其隙に弟子等イエズスに請ひて、ラビ食し給へ、と云ひしに、 32曰ひけるは、我には汝等の知らざる食物の食すべきあり、と。 33弟子等、誰か食物を持來りしぞ、と云ひ合へるを、 34イエズス曰ひけるは、我食物は、我を遣はし給ひし者の御旨を行ひて其業を全うする事是なり。 35汝等は、尙四箇月の間あり、其後收穫の時來る、と云ふに非ずや。我汝等に告ぐ、目を翹げて田畑を見よ、最早穫取るべく白みたり。 36穫る人は報を受けて永遠の生命に至るべき果を收むれば、捲く人も穫る人も共に喜ぶべし。 37諺に一人は撒き一人は穫ると云へる事、是に於て乎實なり。 38我汝等を遣はして、勞作せざりし物を穫らしめたり。卽ち他の人前に勞作して、其勞作したる所を、汝等が承繼ぎたるなり、と。 39然て彼町にては、彼人我が爲しし事を殘らず我に告げたり、と證したる婦の言によりて、多くのサマリア人イエズスを信ぜしかば、 40人々御許に來りて、此處に留り給はんことを請へり、然れば此處に留り給ふ事二日にして、 41尙多くの人御言によりて之を信仰せり。 42斯て彼婦に向ひ、我等は最早汝の語る所によりて信ずる者に非ず、卽ち自ら彼に聽きて、其眞に救世主たる事を知れり、と云ひ居たり。 43然るに二日の後、イエズス其處を出でてガリレアに往き給へり。 44預言者其本國に尊ばれず、と自ら證し給ひしが、 45ガリレアに至り給ひしに、ガリレア人は、曾て祭日にエルザレムにて行ひ給ひし一切の事を見たりければ、イエズスを歡迎せり、其は彼等も祭日に往きてありしなり。 46斯てイエズス再び、嚮に水を酒に化し給ひしガリレアのカナに至り給ひしに、一人の王官あり、其子カファルナウムにて病み居ければ、 47イエズスユデアよりガリレアに來給ふと聞きて、御許に至り、下りて己が子を醫し給はん事を切に願ひ居たり、彼將に死なんとすればなり。 48イエズス之に曰ひけるは、汝等は徵と奇蹟とを見ざれば信ぜず、と。 49官人イエズスに向ひて、主よ、我子の死なざる前に下り來給へ、と云ひしに、 50イエズス、往け、汝の子活く、と曰ひしかば、此人イエズスの己に曰ひし御言を信じて往きたり。 51然て下る途に、僕等行逢ひて、其子の活きたる由を告げければ、 52其回復せし時刻を問ひしに、彼等、昨日の午後一時に熱去れり、と云ふにぞ、 53父は恰もイエズスが汝の子活くと己に曰ひしと同時なりしを知り、其身も一家も擧りて信仰せり。 54此第二の奇蹟は、イエズスユデアよりガリレアに至り給ひし時に行ひ給ひしなり。
第5章
1其後ユデア人の祭日ありしかば、イエズスエルザレムに上り給へり。 2然てエルザレムには、羊門の傍に、ヘブレオ語にてベテスダと云へる池あり、之に付屬せる五の廊ありて、 3其内に夥しき病人、瞽者、跛者、癱瘋者等偃して水の動くを待ち居れり。 4其は時として主の使池に下り、水爲に動く事あり、水動きて後、眞先に池に下りたる者は如何なる病に罹れるも痊ゆればなり。 5茲に卅八年來病を患ふる人ありしが、 6イエズス彼が偃せるを見、且其患ふる事の久しきを知り給ひしかば、汝痊えん事を欲するか、と曰ひしに、 7病者答へけるは、君よ、水の騷ぐ時に我を池に入るる人なし、然れば我が往く中に他の人我に先ちて下るなり、と。 8イエズス之に向ひ、起きよ、汝の寢臺を取りて步め、と曰へば、 9其人忽ち痊え、寢臺を取りて步みたり。其日は安息日なりければ、 10ユデア人其痊えたる人に向ひ、安息日なり、汝寢臺を携ふべからず、と云へるを、 11彼は、我を醫しし人、汝の寢臺を取りて步めと云ひたるなり、と答へければ、 12彼等、汝に寢臺を取りて步めと云ひし人は誰ぞ、と問ひたれど、 13痊えたる人は其誰なるを知らざりき、其はイエズス既に此場の雜踏を避け給ひたればなり。 14後イエズス[神]殿にて彼に遇ひ、看よ、汝は醫されたり、復罪を犯すこと勿れ、恐らくは尙大いなる禍汝に起らん、と曰ひけるに、 15彼人往きて、己を醫ししはイエズスなりとユデア人に告げしかば、 16ユデア人は、安息日に斯る事を爲し給ふとて、イエズスを譴め居たり。 17イエズス、我父は今に至るまで働き給へば、我も働くなり、と答へ給ひければ、 18ユデア人愈イエズスを殺さんと謀れり、其は啻に安息日を冒し給ふのみならず、神を我父と稱して、己を神と等しき者とし給へばなり。然ればイエズス答へて彼等に曰ひけるは、 19誠に實に汝等に告ぐ、父の爲し給ふ事を見る外に、子は自ら何事をも爲す能はず。蓋總て父の爲し給ふ事は、子も亦同じく之を爲す。 20卽ち父は子を愛して、自ら爲し給ふ所を悉く之に示し給ふ、又更に汝等が驚くばかり、一層大いなる業を之に示し給はんとす。 21蓋父が死人を起して活かし給ふ如く、子も亦我が思ふ者を活かすなり。 22又父は誰をも審判し給はず、審判を悉く子に賜ひたり。 23是人皆父を尊ぶ如く子を尊ばん爲なり。子を尊ばざる人は、之を遣はし給ひし父を尊ばざる者なり。 24誠に實に汝等に告ぐ、我言を聽きて我を遣はし給ひし者を信ずる人は、永遠の生命を有し、且審判に至らずして、死より生に移りたる者なり。 25誠に實に汝等に告ぐ、時は來る、今こそ其よ、卽ち死人は神の子の聲を聞くべく、之を聽きたる人は活くべし。 26蓋父は生命を己の衷に有し給ふ如く、子にも亦生命を己の衷に有する事を得させ給へり。 27且人の子たるにより、審判する權能を之に賜ひしなり。 28汝等之を怪しむ勿れ、墓の中なる人悉く神の子の聲を聞く時來らんとす。 29斯て善を爲しし人は、出でて生命に至らんが爲に復活し、惡を行ひし人は、審判を受けんが爲に復活せん。 30我自らは何事をも爲す能はずして、聞くが儘に審判す、而も我審判は正當なり、其は我己が意を求めず、我を遣はし給ひし者の思召を求むればなり。 31我若自ら己を證明せば、我が證明は眞ならずとも、 32我爲に證明する者他にあり、而して我其わが爲に作す證明の眞なるを知れり。 33汝等曾て人をヨハネに遣はししに、彼は眞理を證明せり。 34我は人よりの證明を受くる者に非ざれども、之を語るは汝等の救はれん爲なり。 35彼は燃え且輝ける燈なりしが、汝等は暫時其明によりて樂しまんとせり。 36然れども我はヨハネのに優りて大いなる證明を有す。卽ち父が全うせよとて我に授け給ひし業、我が爲しつつある業其物が、父の我を遣はし給ひし事を證するなり。 37我を遣はし給ひし父も、亦自ら我爲に證し給ひしなり、然れど汝等は曾て御聲を聞きし事なく、御姿を見し事なく、 38又御言を心に留むる事なし、是其遣はし給ひし者を信ぜざればなり。 39汝等は聖書に永遠の生命を有すと思ひて之を探る、彼等も亦我を證明するものなり、 40然れど汝等は生命を得ん爲我許に來る事を肯ぜず。 41我は名譽を人より受くる者に非ず、 42而も汝等を知れり、卽ち汝等は心に神を愛する事あらざるなり。 43我は我父の名に由りて來れるに、汝等は我を承けず、若外に己の名に由りて來る人あらば、之をば承くるならん。 44互に名譽を受けて、而も唯一の神より出づる名譽を求めざる汝等なれば、豈信ずることを得んや。 45我汝等を父の御前に訟へんとすと思ふこと勿れ、汝等を訟ふる者あり、汝等が恃めるモイゼ是なり。 46汝等若モイゼを信ずるならば、必ず我をも信ずるならん、其は彼我事を錄したればなり。 47然れど若彼の書を信ぜずば、爭でか我言を信ぜんや、[と曰へり]。
第6章
1其後イエズス往きて、ガリレアの湖、卽ちチベリアデの湖の彼方へ渡り給ひしに、 2病める人々に爲し給へる奇蹟を見て、群衆夥しく從ひければ、 3山に引退きて、弟子等と共に其處に坐し居給へり。 4時はユデア人の過越の祭日近き頃なりき。 5イエズス目を翹げて、無數の群衆の我許に來るを見給ひしかば、フィリッポに曰ひけるは、此人々の食すべき麪を我等何處より買ふべきか、と。 6斯く曰へるは、彼を試み給はん爲なりき、蓋自らは其爲さんとする所を知り給へるなり。 7フィリッポ答へけるは、二百デナリオの麪は、各些少づつを受くるも、此人々には足らざるなり、と。 8弟子の一人なる、シモン、ペトロの兄弟アンデレア、イエズスに向ひて、 9茲に一人の童子あり、大麥の麪五と魚二とを有てり、然れど斯く夥しき人の中に、其が何になるぞ、と云ひしかば、 10イエズス、人々を坐せしめよ、と曰ひ、此處に草多かりければ、男子等坐したるに、其數五千人許なりき。 11イエズス軈て麪を取り、謝し給ひて後、坐せる人々に分ち、魚をも彼等の欲するに任せて分ち給へり。 12人々滿腹せし時、イエズス弟子等に向ひ、殘れる屑を遺らざる樣に拾へ、と曰ひしかば、 13食せし人々の餘したる五の大麥の麪の屑を拾ひて、十二の筐に滿たせり。 14斯て人々、イエズスの爲し給ひたる奇蹟を見て、實に是ぞ此世に來るべき預言者なる、と云ひしが、 15イエズス彼等の將に己を執へて王と爲さんとするを曉り給ひしかば、復獨り山に逃れ給へり。 16日没に及び、弟子等湖に下りて、 17船に乘り、カファルナウムに向ひて湖を渡るに、既に暗けれどもイエズス未だ彼等の處に來り給はず、 18湖は大風吹きて荒れ居たり。 19斯て約四五十町も漕出したる時、人々イエズスの水の上を步みて船に近づき給ふを見て怖れしが、 20イエズス我なるぞ、怖るること勿れ、と曰ひしかば、 21彼等之を船に乘せんとしたるに、船は忽ち之く所の地に着けり。 22明日に至りて、湖の此方に立てる群衆、船は一艘の外あらざりしに、イエズス弟子等と共に其船に入り給はずして、弟子等のみ往きし事を認めたり。 23折しも別の船等チベリアデより來り、主の謝し給ひて己等が麪を食せし處に近く着きしかば、 24人々イエズスと弟子等との其處に在らざるを見て其船に乘り、イエズスを尋ねてカファルナウムに至れり。 25斯て彼等湖を渡り、イエズスを見付けて、ラビ何時此處に來り給ひしぞ、と云ひしかば、 26イエズス彼等に答へて曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等が我を尋ぬるは、奇蹟を見し故に非ず、麪を食して飽足りし故なり。 27働く事は朽つる糧の爲にせずして、永遠の生命に至るまで存する糧、卽ち人の子が汝等に與へんとする糧の爲にせよ、其は父なる神彼を證印し給ひたればなり、と。 28是に於て人々イエズスに向ひ、神の業を働かん爲には、我等何を爲すべきぞ、と云ひしに、 29イエズス答へて曰ひけるは、汝等其遣はし給ひし者を信ずるは、是神の業なり、と。 30是に於て彼等又言ひけるは、然らば我等をして見て汝を信ぜしめん爲に、如何なる徵を爲し何を行ひ給ふぞ。 31我等が先祖は荒野にてマンナを食せり、錄して「彼等に天よりの麪を與へて食せしめ給へり」とあるが如し、と。 32其時イエズス彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、モイゼは天よりの麪を汝等に與へず、我父こそ天よりの眞の麪を汝等に賜ふなれ。 33蓋神の麪とは、天より降りて世に生命を與ふるもの是なり、と。 34斯て人々、主よ、此麪を恒に我等に與へよ、と云ひしかば、 35イエズス曰ひけるは、我は生命の麪なり、我に來る人は飢ゑず、我を信ずる人は、何時も渴かざるべし。 36然れども我が既に汝等に告げし如く、汝等は我を見たれども、猶信ぜざるなり。 37總て父の我に賜ふ者は我に來らん、我に來る人は我之を逐出さじ、 38是我が天より降りしは、我意を成さん爲に非ずして、我を遣はし給ひし者の思召を成さん爲なればなり。 39然て我を遣はし給ひし父の思召は、總て我に賜ひし者を我毫も失はずして、終の日に之を復活せしむべき事是なり。 40又我を遣はし給ひし我父の思召は、總て子を見て之を信仰する人は永遠の生命を得ん事是なり。斯て我終の日に之を復活せしむべし、と。 41是に於てイエズスが、我は天より降りたる麪なり、と曰ひし爲に、ユデア人等彼に就きて呟きつつ、 42是ヨゼフの子イエズスにして、其父母は我等が知れる者ならずや。然るを如何ぞ、我は天より降れりと云ふや、と云ひければ、 43イエズス答へて曰ひけるは、汝等呟き合ふこと勿れ、 44我を遣はし給ひし父の引き給ふに非ずば、何人も我に來る事を得ず、[來る人は]我終の日に之を復活せしめん。 45預言者等[の書]に錄して、「皆神に敎へらるる者とならん」とあり。父に聽きて學べる人は皆我に來る、 46父を人の見奉りしには非ず、惟神より成る者のみ父を見奉りたるなり。 47誠に實に汝等に告ぐ、我を信ずる人は永遠の生命を有す。 48我は生命の麪なり。 49汝等の先祖は、荒野にマンナを食して死せしが、 50是は天より降る麪にして、人之を食せば死せざらん爲なり。 51我は天より降りたる活ける麪なり。人若此わが麪を食せば永遠に活くべし。[52]而して我が與へんとする麪は、此世を活かさん爲の我肉なり、と。 52[53]是に於てユデア人等相爭ひ、此人爭でか己が肉を我等に與へて食せしむるを得んや、と云ひしかば、 53[54]イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等人の子の肉を食せず其血を飲まずば、汝等の衷に生命を有せざるべし。 54[55]我肉を食し我血を飲む人は永遠の生命を有す、而して我終の日に之を復活せしむべし。 55[56]蓋我肉は實に食物なり。我血は實に飲物なり。 56[57]我肉を食し我血を飲む人は我に止り、我も亦之に止る。 57[58]活ける父我を遣はし給ひて、我父に由りて活くる如く、我を食する人も亦我に由りて活きん。 58[59]是ぞ天より降りし麪なる、汝等の先祖がマンナを食して然も死せしが如くならず、此麪を食する人は永遠に活くべし、と。 59[60]イエズスカファルナウムなる會堂の内にて敎へつつ斯く曰ひしに、 60[61]弟子等の中には、之を聞きて、此談は難し、誰か之を聽くことを得ん、と謂ふ者多かりしが、 61[62]イエズス彼等が之に就きて呟けるを自ら知りて曰ひけるは、此事汝等を躓かしむるか、 62[63]然れば汝等若人の子が原居りし處に昇るを見ば如何、 63[64]活かすものは靈にして、肉は益する所なし、我が汝等に語りし言は靈なり生命なり。 64[65]然れども汝等の中には信ぜざる者あり、と。是イエズス素より、信ぜざる人々の誰なるか、己を賣るべき人の誰なるかを知り居給へばなり。 65[66]斯て曰ひけるは、然ればこそ我曾て、人は我父より賜はりたるに非ずば我に來ることを得ず、と汝等に告げたるなれ、と。 66[67]此後は、弟子等多く退きて、最早イエズスと共に步まざりしかば、 67[68]イエズス十二人に向ひ、汝等も去らんと欲するか、と曰ひしに、 68[69]シモン、ペトロ答へけるは、主よ、我等誰にか之かん、汝こそ永遠の生命の言を有し給ふなれ。 69[70]我等は汝が神の御子キリストなる事を信じ且曉れり、と。 70[71]イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等十二人を選みしに非ずや、然るに汝等の一人は惡魔なり、と。 71[72]是はシモンの子イスカリオテのユダを曰へるものにて、彼は十二人の一人ながら、イエズスを賣るべき者なればなり。
第7章
1ユデア人が殺さんと謀れるに因り、イエズス其後はユデアを巡ることを好み給はず、ガリレアを巡り給ひしが、 2ユデア人の幕屋の祝日近づきければ、 3兄弟等イエズスに向ひ、汝の行へる業を弟子等に見せん爲、此處を去りてユデアに往け、 4蓋公に知れん事を求めながら、而も窃に事を爲す人はあらず、斯る事を爲す上は己を世を顯せかし、と云へり。 5是其兄弟等も之を信ぜざりし故なり。 6然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等の時は恒に備はれども、我時は未だ至らず、 7世は汝等を憎む能はざるに我をば憎めり、其は我之に就きて、其所業の惡きことを證すればなり、 8汝等は此祭日に上れ、我時未だ滿たざれば、我は此祭日に上らず、と。 9斯く曰ひてガリレアに留り給ひしが、 10兄弟等の上りたる後、自らも顯ならず忍びたる樣にて祭日に上り給へり。 11然れば祭日に當りて、ユデア人、彼は何處に居るぞとて之を探し、 12又群衆の中に之に就きて囁く者多かりき。卽ち或人は彼は善人なりと謂ひ、或人は否人民を惑はすのみと謂ひ居たり、 13然れど孰もユデア人の懼ろしさに、彼に就きて顯に語る人なかりき。 14斯て祭日の半に、イエズス[神]殿に上りて敎へ給ひければ、 15ユデア人驚嘆して、彼曾て學ばざるに如何にして文字を知れるぞ、と云ひ居たるを、 16イエズス彼等に答へて曰ひけるは、我敎は我のに非ず、我を遣はし給ひし者の[敎]なり。 17其思召を肯て爲さん人は、此敎が神よりせるか又は我が私を以て言へるかを曉らん。 18己が私を以て語る人は己の光榮を求むれども、己を遣はしし者の光榮を求むる人は、眞實にして衷に不義ある事なし。 19モイゼは律法を汝等に授けしに、汝等の中に之を行ふ者なきは何ぞや、 20汝等如何ぞ我を殺さんとは謀る、と。群衆答へて、汝は惡魔に憑かれたり、誰か汝を殺さんとはする、と云ひしかば、 21イエズス答へて曰ひけるは、我一の業を爲ししに汝等皆之を訝れり、 22夫モイゼ割禮を汝等に授けたれば、――モイゼより出しに非ずして先祖より出でたるものなるに、――汝等安息日にも人に割禮を行ひ、 23モイゼの律法を破らじとて、人は安息日にも割禮を受くるに、我が安息日に人の全身を醫したればとて、汝等の我を憤るは何ぞや。 24外見によりて是非すること無く、正しき判斷によりて是非を定めよ、と。 25是に於てエルザレムの或人々言ひけるは、是人々が殺さんと謀れる者に非ずや、 26看よ公然と談話すれども人は之に何をも言はず。司等は彼がキリストたる事を眞に認めたるか、 27然りながら我等は此人の何處の者なるかを知れり、キリストの來る時には其何處よりせるかを知る人あらじ、と。 28然るにイエズス神殿にて呼はりつつ敎へて曰ひけるは、汝等は我を知り、亦我が何處より來れるかを知れり、然れども我は己によりて來りたるには非ず、我を遣はし給ひし者は眞實にて在す、汝等は之を知らず、 29我は之を知れり、其は我彼より出でて、彼我を遣はし給ひたればなり、と。 30是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼が時未だ至らざればなり。 31然れど人民の中には之を信じたる者多く、キリスト來ればとて豈此人の爲すより多くの奇蹟を爲さんや、と云ひ居たり。 32人民がイエズスに就きて斯く囁ける由ファリザイ人の耳に入りしかば、司祭長とファリザイ人とは、下役等を遣はしてイエズスを捕へしめんとせしを、 33イエズス彼等に曰ひけるは、我尙暫く汝等と共に居て、然て我を遣し給し者の御許に之かんとす、 34汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と。 35是に於てユデア人等語合ひけるは、我等彼に遇はじとて、彼は何處に往かんとするぞ、異邦人の中に散在せる同邦人の許に往きて、異邦人を敎へんとするか、 36其言に、汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と云ひしは何事ぞや、と。 37祭の終の日、卽ち其大祭日に、イエズス立ちて呼はりつつ曰ひけるは、渴ける人あらば我許に來りて飲め、 38我を信ずる人は、聖書に云へる如く、活ける水の川其腹より流出づべし、と。 39斯く曰ひしは、己を信ずる人々に賜はるべき[聖]靈の事なりき、其はイエズス未だ光榮を受け給はざるにより、[聖]靈は未だ賜はざりしが故なり。 40斯て彼群衆の中に、是等の言を聞きて、是眞に彼預言者なり、と謂ふ人あり、 41是キリストなり、と謂ふ人もありき。然れど或人は、キリストはガリレアより出づべき者なるか、 42聖書にキリストはダヴィドの裔より、又ダヴィドの居たりしベトレヘムの町より出づ、と云へるに非ずや、と云ひつつ、 43イエズスに就きて群衆の中に諍論を生じたり。 44中にはイエズスを捕へんと欲する者ありたれど、誰も手を掛くる者なかりき。 45然れど下役等は、司祭長とファリザイ人との許に還りしに、何ぞ彼を引來らざる、と云はれて、 46下役等、此人の如く語りし人は未だ曾てあらず、と答へしかば、 47ファリザイ人答へけるは、汝等も亦惑はされしか、 48長及びファリザイ人の中に、一人だも彼を信じたる者ありや、 49然れど律法を知らざる彼群衆は詛はれたる者なり、と。 50曾て夜イエズスに至りし彼ニコデモは、其中の一人なりしが、彼等に向ひて、 51我律法は、先其人にも聽糺さず、其爲す所をも知らずして、之を罪に定むるものなるか、と云ひしかば、 52彼等答へて云ひけるは、汝も亦ガリレア人なるか、聖書を探り見よ、然て預言者はガリレアより起るものに非ずと曉れ、と。 53斯て各自宅に歸れり。
第8章
1イエズス、橄欖山に往き、 2黎明に復[神]殿に至り給ひしに、人民皆御許に來りければ、坐して之を敎へ居給ひしが、 3律法學士、ファリザイ人等、姦淫せる時捕へられたる一人の婦を引來りて之を眞中に立たせ、 4イエズスに云ひけるは、師よ、此婦は今姦淫せる處を捕へられたり、 5モイゼは律法に於て斯る者に石を擲つ事を我等に命じたるが、汝は之を何と謂ふぞ、と。 6斯く云へるは、イエズスを試みて、訟ふる條件を得ん爲なりしが、イエズスは身を屈め、指もて地に物を書き居給へり。 7然るに彼等問ひて止まざりしかば、イエズス立上り、汝等の中罪なき人は、先に石を彼に擲つべし、と曰ひ、 8再び身を屈めて地に物書き居給へるに、 9彼等聞きて、年長を初として一人々々に立去り、唯イエズスと眞中に立てる婦とのみ遺りしかば、 10イエズス立上りて之に曰ひけるは、婦よ、汝を訟へ居たりし人々は何處に居るぞ、誰も汝を罪に定めざりしか、と。 11婦、主よ誰も、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我も汝を罪に定めじ、往け、此後復罪を犯すこと勿れ、と。 12然てイエズス再び人々に語りて、我は世の光なり、我に從ふ人は暗黑を步まず、却て生命の光を得べし、と曰ひければ、 13ファリザイ人之に謂ひけるは、汝は自ら己を證明す、汝の證明は眞實ならず。 14イエズス答へて曰ひけるは、我は己を證明すれども、我證明は眞實なり、是我が何處より來りて何處に往くかを知ればなり。然れど汝等は、我が何處より來りて何處に往くかを知らず、 15汝等は肉親によりて是非し、我は誰をも是非せず、 16若是非する事あれば、我が是非する所は眞實なり、其は我獨に非ずして我と我を遣はし給ひし父となればなり。 17汝等の律法に錄して、「二人の證は眞實なり」とあり、 18我は己を證し、我を遣はし給ひし父も亦我を證し給ふなり、と。 19彼等乃ちイエズスに向ひ、汝の父何處にか在る、と云ひしかば、イエズス答へ給ひけるは、汝等は我をも我父をも知らず、若我を知りたらば必ず我父をも知れるならん、と。 20イエズスが斯く語り給ひしは、[神]殿の内、賽錢箱の傍にて敎へつつありし時なれども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼の時未だ至らざればなり。 21然ればイエズス再び彼等に向ひ、我は往く、汝等我を尋ぬべけれども、己が罪の中に死せん、我が往く處には汝等來る能はず、と曰ひしかば、 22ユデア人、彼は我が往く處には汝等來る能はずと云ひしが、自殺せんとするか、と云ひけるに、 23イエズス曰ひけるは、汝等は下よりせるに、我は上よりせり、汝等は此世の者なるに、我は此世の者に非ず、 24我是によりて、汝等己が罪の中に死せんと云へり、蓋汝等、若我が其なる事を信ぜずば、己が罪の中に死すべし、と。 25彼等、汝は誰なるぞ、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我は卽ち素より汝等に告ぐる所の者なり。 26我汝等に就きて云ふべき事、審くべき事多し、然りながら我を遣はし給ひし者は眞實にて在し、我が世に在りて語る所は彼より聞きしものなり、と。 27斯ても彼等は、イエズスが神を我父と稱し給へることを曉らざりき。 28然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等人の子を擧げたらん時、我が其なる事を曉り、又我が私には何事をも爲さず、父の敎へ給へる儘に、此等の事を語るを曉らん。 29我を遣はし給ひし者は我と共に在して、我を孤ならしめ給はず、其は我が恒に御意に適へる事を爲せばなり、と。 30斯く語り給へるに、信仰する人多かりければ、 31イエズス己を信じたるユデア人に向ひ、汝等若我言に止らば實に我弟子にして、且眞理を曉り、 32眞理は汝等を自由ならしめん、と曰ひしかば、 33彼等答へけるは、我等はアブラハムの子孫にして未だ曾て誰にも奴隷たりし事なし、何ぞ汝等自由なるべしと言ふや、と。 34イエズス彼等に答へ給ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、總て罪を犯す人は罪の奴隷なり、 35奴隷は限なく家に止る者に非ず、子こそ限なく止るなれ、 36然れば子若汝等を自由ならしめば、汝等實に自由成るべし。 37汝等がアブラハムの子孫なる事は我之を知れり、然れども我言汝等の中に容れられざるによりて、汝等我を殺さんとす。 38我は我父に就きて見し所を語り、汝等は己が父に就きて見し所を行ふなり、と。 39彼等答へて、我等の父はアブラハムなり、と云ひしかば、イエズス彼等に曰ひけるは、汝等若アブラハムの子等ならばアブラハムの業を爲せ、 40然るに汝等は今、神より聞きたる眞理を汝等に告ぐる人たる我を殺さんと謀る、是アブラハムの爲さざる所、 41汝等は己が父の業を爲すなり、と。是に於て彼等イエズスに云ひけるは、我等は私通によりて生れし者に非ず、我等に獨一の父卽ち神あり、と。 42イエズス乃ち彼等に曰ひけるは、神若汝等の父ならば汝等は必ず我を愛するならん、其は我神より出來りたればなり、卽ち我は私に來りしに非ず、神こそ我を遣はし給ひしなれ。 43汝等我談を弁へざるは何故ぞ、是我が語る所を聞き得ざる故なり。 44汝等は惡魔なる父より出でて敢て己が父の望を行ふ、彼は初より殺人者にして眞理に立たざりき、眞理は彼の中に在らざればなり、彼は僞を云ふ時己より語る、其は僞者にして而も僞の父なればなり。 45我眞理を說けども汝等之を信ぜず、 46汝等の中誰か我に罪ある事を證せん。我汝等に眞理を說くも我を信ぜざるは何故ぞ、 47神よりの者は神の御言を聽く、汝等の聽かざるは神よりの者ならざるによれり、と。 48斯てユデア人答へてイエズスに謂ひけるは、我等が、汝はサマリア人にして惡魔に憑かれたる者なり、と云へるは宜ならずや。 49イエズス答へけるは、我惡魔に憑かれず、却て我父を尊べるに、汝等は我を侮辱す。 50但我は己の光榮を求めず、之を求め且審判し給ふ者は別に在り。 51誠に實に汝等に告ぐ、人若我言を守らば永遠に死を見ざるべし、と。 52是に於てユデア人云ひけるは、我等汝が惡魔に憑かれたるを今こそは曉りたれ、アブラハムも死し、預言者等も死せり、然るを汝、人若我言を守らば永遠に死を味はじと云ふ。 53汝は我等の父アブラハムよりも大いなる者なるか、彼も死し預言者も死したるに、汝は己を誰なりとするぞ。 54イエズス答へ給ひけるは、我若自ら己に光榮を歸せば、我光榮は皆無成るべし、我に光榮を歸する者は我父なり。卽ち汝等が己の神と稱する者なり。 55汝等は彼を知らざれども我は彼を知れり、我若彼を知らずと云はば、汝等と均しく僞者たるべし、然れども我は彼を知り且其御言を守る。 56汝等の父アブラハムは、我日を見んと樂しみしが、見て喜べり、と。 57是に於てユデア人イエズスに向ひ、汝未だ五十歲ならざるに、而もアブラハムを見たりしや、と云ひたるに、 58イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我はアブラハムの生るるに先ちて存す、と。 59是に於て人々石を取りてイエズスに擲たんとしけるに、イエズス身を隱して[神]殿より出で給へり。
第9章
1イエズス通りかかりに、一人の生れながらの瞽者を見給ひしかば、 2弟子等、ラビ此人の瞽者に生れしは誰の罪ぞ、己の罪か兩親の罪か、と問ひたるに、 3イエズス答へ給ひけるは、此人も其親も罪を犯ししに非ず、彼が身の上に神の業の顯れん爲なり。 4我を遣はし給ひし者の業を我晝の間に爲さざるべからず、誰も業を爲す能はざる夜は將に來らんとす、 5我世に在る間は世の光なり、と。 6斯く曰ひて、イエズス地に唾し、唾を以て泥を造り、之を彼の目に塗りて、 7曰ひけるは、シロエの池に至りて洗へ、と。シロエとは遣はされたるものと譯せらる。彼卽ち往きて洗ひしに、目明きて歸れり。 8斯て隣人及び曾て彼が乞食せるを見し人々は、是坐りて乞食し居たりし者ならずや、と云へば、或人は其なりと言ひ、 9或人は否其に似たる人なりと言ふを彼は、我其なりと云ひ居たり。 10然れば彼等、汝の目は如何にして明きたるぞ、と言へるに、 11彼答へけるは、彼イエズスと稱する人、泥を造りて我目に塗り、シロエの池に至りて洗へと云ひしかば、我往きて洗ひて、然て見ゆるなり、と。 12人々、其人何處に居るぞと云ひしに彼、我は之を知らず、と云へり。 13彼等其瞽者なりし人をファリザイ人の許に伴ひ行きしが、 14イエズスの泥を造りて其目を明け給ひしは、安息日なりければ、 15ファリザイ人更に、如何にして見ゆるに至りしぞ、と問へるを彼答へて、彼人わが目に泥を塗り、我之を洗ひたれば見ゆるなり、と云ひしかば、 16ファリザイ人の或者は、安息日を守らざる彼人は神よりの者に非ずと云ひ、或者は、罪人なる者爭でか斯る奇蹟を行ふを得んや、と云ひて彼等の間に諍論ありき。 17然れば重ねて瞽者なりし人に、汝は其目を明けし人を何と謂ふぞ、と云へば、彼は、預言者なり、と云へり。 18ユデア人は、彼が曾て瞽者にして、見ゆる樣になれるを信ぜざれば、遂に彼目明きし人の兩親を呼び、 19問ひて云ひけるは、瞽者に生れしと汝等が云へる其子は是なるか、然らば如何にして今見ゆるぞ、と。 20兩親答へて、彼が我子なる事と、瞽者に生れし事とは、我等之を知る、 21然れど如何にして今見ゆるかを知らず、又其目を明けし者の誰なるかは、我等は知らざるなり、彼に問へ、彼年長けたれば自ら己が事を語るべし、と云へり。 22兩親の斯く云ひしは、ユデア人を懼れたる故にして、彼等が、イエズスをキリストなりと宣言する人あらば、之を會堂より逐出すべし、と言合せたるに因れり、 23彼年長けたれば之に問へ、と兩親の云ひしは之が爲なり。 24是に於て彼等、再び彼瞽者なりし人を呼出して、汝神に光榮を歸せよ、我等は彼人の罪人なる事を知れり、と云ひしかば、 25彼云ひけるは、彼が罪人なりやは我之を知らず、我が知る所は一、卽ち瞽者なりしに今見ゆる事是なり、と。 26其時彼等又、彼人汝に何を爲ししぞ、如何にして汝の目を明けしぞ、と云ひしに、 27彼、我既に汝等に告げて汝等之を聞けり、何爲ぞ復聞かんとはする、汝等も其弟子と成らん事を欲するか、と答へしかば、 28彼等之を詛ひて云ひけるは、汝は彼の弟子にてあれ、我等はモイゼの弟子なり、 29我等は神がモイゼに語り給ひし事を知れど、彼人の何處よりせるかを知らず、と。 30瞽者なりし人答へて、汝等が其何處よりせるかを知らざるこそ怪しけれ、彼我目を明けしものを。 31我等は知る、神は罪人に聽き給はず、然れど神に奉事して御旨を行ふ人あれば之に聽き給ふことを。 32開闢以來生れながらなる瞽者の目を明けし人ある事を聞かず、 33彼人若神より出でたるに非ずば何事をも爲し得ざりしならん、と云ひしかば、 34ファリザイ人答へて、汝は全く罪の中に生れたるに、猶我等を敎ふるか、と云ひて之を逐出だせり。 35イエズス其逐出だされし事を聞き、之に出遇ひ給ひし時、汝神の子を信仰するか、と曰ひしに、 36彼答へて、主よ、我が之を信仰すべき者は誰ぞ、と云ひしかば、 37イエズス曰ひけるは、汝それを見たり、汝と語る者卽ち是なり、と。 38彼、主よ、我は信ず、と云ひて平伏しつつイエズスを禮拜し奉れり。 39イエズス曰ひけるは、我審判の爲に此世に來れり、卽ち目見えざる人は見え、見ゆる人は瞽者と成るべし、と。 40ファリザイ人の中イエズスと共に在りし者之を聞きて、我等も瞽者なるか、と云ひしかば、 41イエズス彼等に曰ひけるは、汝等瞽者ならば罪なかるべし、然れど今自ら見ゆと云ふに由りて、汝等の罪は遺るなり。
第10章
1誠に實に汝等に告ぐ、羊の檻に入るに、門よりせずして他の處より越ゆるは、盜人なり强盜なり、 2門より入るは羊の牧者なり。 3門番は彼に戶を開き、羊は其聲を聽き、彼亦己が羊を一々に名指して引出す、 4斯て其羊を出せば、彼先ちて往き羊之に從ふ、其聲を知ればなり、 5然れども他人には從はず、却て之を避く、他人の聲を知らざればなり、と。 6イエズス此喩を彼等に曰ひしかど、彼等は其語り給ふ所の何たるを曉らざりき。 7然ればイエズス再び彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我は羊の門なり、 8已に來りし人は皆盜人、强盜にして、羊之に聽從はざりき。 9我は門なり、人若我に由りて入らば救はれ、出入して牧場を得べし。 10盜人の來るは盜み、殺し、亡さんとするに外ならざれども、 11我が來れるは羊が生命を得、而も尙豐に得ん爲なり。我は善き牧者なり、善き牧者は其羊の爲に生命を棄つ、 12然れども牧者に非ずして羊吾物に非ざる被雇人は、狼の來るを見れば羊を棄てて逃げ、狼は羊を奪ひ且追散す。 13被雇人の逃ぐるは、被雇人にして羊を勞らざる故なり。 14我は善き牧者にして我羊を知り、我羊亦我を知る、 15恰も父我を知り給ひ、我亦父を知り奉るが如し、斯て我は我羊の爲に生命を棄つ、 16我は又此檻に屬せざる他の羊を有てり、彼等をも引來らざるべからず、然て彼等我聲を聞き、斯て一の檻、一の牧者となるべし。 17父の我を愛し給へるは、之を再び取らんが爲に我生命を棄つるに因る、 18誰も之を我より奪ふ者はあらず、我こそ自ら之を棄つるなれ。我は之を棄つるの權を有し、又再び之を取るの權を有す、是我父より受けたる命なり、と。 19是等の談の爲に、ユデア人の中に復諍論起れり、 20其中には、彼は惡魔に憑かれて狂へるなり、汝等何ぞ之に聽くや、と云ふ人多かりしが、 21他の人は、是惡魔に憑かれたる者の言に非ず、惡魔豈瞽者の目を明くことを得んや、と云ひ居たり。 22然てエルザレムに奉殿記念祭行はれて、時は冬なりしが、 23イエズス[神]殿に在りてサロモンの廊を步み居給ふに、 24ユデア人之を取圍みて、汝何時まで我等の心を疑惑せしむるぞ、汝若キリストならば、明白に我等に告げよ、と云ひければ、 25イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等に語れども汝等信ぜざるなり、我が父の御名を以て行へる業、是ぞ我を證明するものなるに、 26汝等尙之を信ぜず、是我羊の數に入らざればなり。 27我羊は我聲を聽き、我彼等を知り、彼等我に從ふ、 28斯て我永遠の生命を彼等に與ふ、彼等長久に亡びず、誰も彼等を我手より奪はじ、 29之を我に賜ひたる我父は、一切に優れて偉大に在し、誰も我父の御手より之を奪ひ得る者なし、 30我と父とは一なり、と。 31是に於てユデア人石を取りてイエズスに擲たんとせしかば、 32イエズス彼等に曰ひけるは、我わが父に由れる善業を多く汝等に示ししが、汝等其孰の爲に我に石を擲たんとはするぞ。 33ユデア人答へけるは、我等が汝に石を擲つは善業の爲に非ず、冒涜の爲、且汝が人にてありながら己を神とする故なり。 34イエズス彼等に答へ給ひけるは、汝等の律法に錄して「我言へらく、汝等は神なり」とあるに非ずや、 35斯く神の言を告げられたる人々を神と呼びたるに、而も聖書は廢すべからず、我は神の子なりと言ひたればとて、 36汝等は、父の聖成して世に遣はし給ひし者に向ひて、汝は冒涜すと謂ふか、 37我もし我父の業を爲さずば我を信ずること勿れ、 38然れど我もし之を爲さば、敢て我を信ぜずとも業を信ぜよ、然らば父の我に在し我の父に居る事を曉りて信ずるに至らん、と。 39是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れるを、彼等の手を遁れて、 40ヨルダン[河]の彼方、ヨハネが初に洗しつつありし處に至り、其處に留り給ひしに、 41多くの人御許に來りて、ヨハネは何の奇蹟をも行はざりしかど、 42此人に就きて告げし事は悉く眞なりき、と云ひつつイエズスを信仰せる者多かりき。
第11章
1然てマリアと其姉妹マルタとの里なるベタニアに、ラザルと云へる人病み居りしが、 2マリアは卽ち香油を主に注ぎ、御足を己が髮毛にて拭ひし婦にして、病めるラザルは其兄弟なり。 3然れば彼が姉妹等、人をイエズスの御許に遣はし、主よ汝の愛し給ふ人病めり、と言はしめしに、 4イエズス聞きて曰ひけるは、此病は死に至るものに非ず、神の光榮の爲、神の子が之に由りて光榮を得ん爲なり、と。 5イエズスはマルタと其姉妹マリアとラザルとを愛し居給ひしが、 6ラザルの病めるを聞き、尙同じ處に留ること二日にして、 7遂に弟子等に向ひ、我等復ユデアへ趣かん、と曰ひしかば、 8弟子等云ひけるは、ラビ、唯今ユデア人が汝に石を擲たんとしたりしに、復も彼處へ往き給ふか。 9イエズス答へて曰ひけるは、一日に十二時あるに非ずや、人晝步む時は、此世の光を見る故に躓かざれども、 10夜步む時は、身に光あらざる故に躓くなり、と。 11斯く曰ひて後又、我等が親友ラザルは眠れり、然れど我往きて之を眠より喚起さん、と曰ひしかば、 12弟子等、主と、眠れるならば彼は痊ゆべきなり、と云へり。 13但イエズスの曰ひしは彼が死の事なりしを、弟子等は眠りて臥せることを曰ひしならんと思ひたりければ、 14イエズス明かに曰ひけるは、ラザルは死せり、 15我は汝等の爲、卽ち汝等を信ぜしめん爲に、我が彼處に在らざりしことを喜ぶ、卒ざ彼が許に往かん、と。 16然ればチヂモと呼ばれたるトマ、其相弟子に謂ひけるは、將ざ我等も往きて彼と共に死なん、と。 17斯てイエズス至りて見給ひしに、ラザルは墓に在る事既に四日なりき。 18然るにベタニアはエルザレムに近くして、廿五町許を隔てたれば、 19數多のユデア人、マルタとマリアとを其兄弟の事に就きて弔はん爲に來りてありき。 20マルタはイエズス來り給ふと聞くや、卽ち出迎へしが、マリアは家の内に坐し居たり。 21マルタイエズスに云ひけるは、主よ、若此處に在ししならば、我兄弟は死なざりしものを、 22然れど神に何事を求め給ふとも神之を汝に賜ふべしとは、今も我が知れる所なり、と。 23イエズス、汝の兄弟は復活すべし、と曰ひしかば、 24マルタ云ひけるは、我は彼が終の日、復活の時に復活すべきことを知れり、と。 25イエズス、我は復活なり、生命なり、我を信ずる人は死すとも活くべし、 26又活きて我を信ずる人は、凡て永遠に死する事なし、汝之を信ずるか、と曰ひしに、 27マルタ云ひけるは、主よ、然り、我は汝が活ける神の御子キリストの此世の來り給ひたる者なるを信ず、と。 28斯く云ひて後、往きて其姉妹マリアを呼び*きて、師茲に在して汝を召し給ふ、と云ひしに、 29彼之を聞くや、直に立ちてイエズスの許に至れり、 30卽ちイエズス未だ里に入り給はずして、尙マルタが出迎へし處に居給ひしなり。 31然ればマリアと共に家に在りて之を弔ひ居たりしユデア人、彼が速に立ちて出しを見、彼は泣かんとて墓に往くぞ、と云ひつつ後に隨ひしが、 32マリアはイエズスの居給ふ處に至り、之を見るや御足下に平伏して、主よ、若此處に在ししならば、我兄弟は死なざりしものを、と云ひければ、 33イエズス彼が泣き居り、伴ひ來れるユデア人も泣き居れるを見、胸中感激して御心を騷がしめ給ひ、 34汝等何處に彼を置きたるぞ、と曰ひしに、彼等は、主よ、來り見給へ、と云ひければ、 35イエズス淚を流し給へり。 36然ればユデア人、看よ彼を愛し給ひし事の如何許なるを、と云ひしが、 37又其中に或人々、彼は生れながらなる瞽者の目を明けしに、此人を死せざらしむるを得ざりしか、と云ひければ、 38イエズス復心中感激しつつ墓に至り給へり。墓は洞にして、之に石を覆ひてありしが、 39イエズス、石を取除けよ、と曰へば死人の姉妹マルタ云ひけるは、主よ、最早四日目なれば彼は既に臭きなり、と。 40イエズス曰ひけるは、汝若信ぜば神の光榮を見るべし、と我汝に告げしに非ずや、と。 41斯て石を取除けしに、イエズス目を翹げて曰ひけるは、父よ、我に聽き給ひしことを謝し奉る。 42何時も我に聽き給ふ事は、我素より之を知れども、汝の我を遣はし給ひし事を彼等に信ぜしめんとて、立會へる人々の爲に之を言へるなり、と。 43斯く曰ひ終りて聲高く、ラザル出來れ、と呼はり給ひしに、 44死したりし者、忽ち手足を布に卷かれたる儘に出來り、其顏は尙汗拭に包まれたれば、イエズス人々に、之を解きて往かしめよ、と曰へり。 45然ればマリアとマルタとの許に來合せて、イエズスの爲し給ひし事を見しユデア人の中には、之を信じたる者多かりしが、 46中にはファリザイ人の許に至りて、イエズスの爲し給ひし事を告ぐる者ありしかば、 47司祭長、ファリザイ人等、議會を召集して、斯人數多の奇蹟を爲すを、我等は如何にすべきぞ、 48若其儘に恕し置かば、皆彼を信仰すべく、又ロマ人來りて我等の土地と國民とを亡ぼすべし、と云ひたるに、 49其中の一人カイファと呼ばるる者、其年の大司祭なりけるが、彼等に謂ひけるは、汝等は事を解せず、 50又一人人民の爲に死して全國民の亡びざるは汝等に利ある事を思はざるなり、と。 51彼は己より之を言ひしに非ず、其年の大司祭なれば、イエズスが國民の爲に死し給ふべき事を預言したるなり、 52卽ち啻に此國民の爲のみならず、散亂れたる神の子等を一に集めんが爲なりき。 53然れば此日より、彼等イエズスを殺さんと謀りしかば、 54イエズス最早陽にユデア人の中を步み給はず、荒野に接ける地方に往き、エフレムと云へる町に至りて、弟子等と共に其處に留り居給へり。 55斯てユデア人の過越祭近づきければ、之に先ちて身を潔めん爲に、地方よりエルザレムに上れる人多かりしが、 56彼等イエズスを探しつつ[神]殿に立ちて、汝等如何に思ふぞ、彼は此祭に來らざるか、と語合へり。 57司祭長ファリザイ人等は、イエズスを捕ふべきにより、之が在所を知れる人あらば申出づべし、と豫て命令を出したりしなり。
第12章
1過越祭の六日前、イエズスベタニアに至り給ひしに、是ラザルの死したりしを復活せしめ給ひし處なれば、 2或人々イエズスの爲に晚餐を設け、マルタ給仕しけるが、ラザルはイエズスと共に食卓に就ける者の一人なりき。 3然るにマリアは價高き純粹のナルドの香油一斤を取りてイエズスの御足に注ぎ、御足を己が髮毛もて拭ひしかば、香油の薰家に滿てり。 4其時弟子の一人、イエズスを賣るべきイスカリオテのユダ、 5何故に此香油を三百デナリオに賣りて貧者に施さざりしぞ、と云へり。 6但し斯く云ひしは貧者を慮れる故に非ず、己盜人にして、財嚢を預り、中に入れらるる物を取れる故なり。 7然るにイエズス曰ひけるは、此女を措け、我葬の日の爲に此香油を貯へたるなり、 8其は貧者は恒に汝等と共に居れども、我は恒に居らざればなり、と。 9斯てユデア人の大群衆、イエズスの此處に居給ふを知り、獨りイエズスの爲のみならず、死者の中より復活せしめ給ひしラザルを見んとて來りしが、 10司祭長等はラザルをも殺さんと思へり、 11是は彼の爲に、去りてイエズスを信仰する者、ユデア人の中に多ければなり。 12翌日、祭日の爲に來りし夥しき群衆、イエズスエルザレムに來り給ふ由を聞きて、 13梭櫚の葉を執りて出迎へ、ホザンナ、主の御名によりて來るイスラエルの王祝せられ給へかし、と呼はり居りしが、 14イエズスは小驢馬を得て之に乘り給へり、錄して 15シオンの女よ、懼るること勿れ、看よ、汝の王は牝驢馬の子に乘りて來る」とあるが如し。 16弟子等初は此等の事を曉らざりしが、光榮を得給ひて後、其イエズスに就きて錄されたりし事と自ら御爲に爲し事とを思出せり。 17然てイエズスがラザルを墓より呼出して、死者の中より復活せしめ給ひし時彼と共に居合せたり夥しき人々證明し、 18群衆も亦、イエズスが此奇蹟を爲し給ひしを聞きて出迎へしかば、 19ファリザイ人語合ひけるは、汝等何の效驗もなきを見ずや、世既に擧りて彼に從へり、と。 20然るに祭日に禮拜せんとて上りたる人々の中に異邦人もありしが、 21此人々ガリレアのベッサイダ生れなるフィリッポに近づき、之に乞ひて、君よ、我等はイエズスに謁えん事を欲す、と云ひしかば、 22フィリッポ來りてアンデレアに告げ、アンデレアとフィリッポと又イエズスに告げしに、 23イエズス答へて曰ひけるは、人の子が光榮を得べき時來れり。 24誠に實に汝等に告ぐ、麥の粒地に墮ちて、若死せざれば、 25唯一にして止るも、若死すれば多くの實を結ぶ。己が生命を愛する人は之を失ひ、此世にて生命を憎む人は、之を保ちて永遠の生命に至るべし、 26人若我に事へば我に從ふべし、而して我が居る處には、我に事ふる人も亦居るべし、人若我に事へば、我父之に榮譽を賜はん。 27今や我心騷げり、我何をか云はん、父よ、我を救ひて此時を免れしめ給へ、然りながら、我は之が爲にこそ此時に至れるなれ、 28父よ、御名に光榮あらしめ給へ、と。其時聲天より來りて曰く、我既に光榮あらしめたり、更に光榮あらしめん、と。 29是に於て立ちて之を聞きたる群衆は、雷鳴れりと云ひ、或人々は、天使彼に言ひたるなり、と云へり。 30イエズス答へて曰ひけるは、此聲の來りしは我が爲に非ずして汝等の爲なり。 31今は世の審判なり、此世の長、今逐出されんとす、 32我地より上げられたらん時は、萬民を我に引寄せん、と。 33斯く曰へるは、如何なる死狀を以て死すべきかを示し給はんとてなるに、 34群衆之に答へけるは、キリストは永遠に存すとこそ、我等は律法より聞けるものを、汝何ぞ人の子上げられるべしと云ふや、人の子とは是誰なるぞ、と。 35イエズス卽ち彼等に曰ひけるは、光は尙暫く汝等の中に在り、汝等光を有する間に步みて、闇に追付かるな。闇に步む人は行先を知らず、 36汝等光を有する間に、光の子と成らん爲に光を信ぜよ、と。斯く曰ひて後、イエズス去りて身を彼等より匿し給へり。 37斯ばかり夥しき奇蹟を彼等の前に爲し給ひたれど、彼等尙イエズスを信ぜざりき。 38是預言者イザヤの言の成就せん爲なり、曰く「主よ、誰か我等に聽きて信じたるぞ、主の御腕は誰に顯れたるぞ」と。 39彼等の信じ得ざりしはイザヤの又云ひし事によれり、 40曰く「彼等目にて見ず、心にて曉らず、飜りて我に醫されざらん爲に、神彼等の目を矇まし、彼等の心を頑固にし給へり」と。 41イザヤが斯く云ひしは、彼の光榮を見て、彼に就きて語りし時なり。 42然れども、重立ちたる人々の中にも、イエズスを信仰せる者多かりしが、ファリザイ人を憚り、會堂より遂出されじとて、之を公言せざりき。 43卽ち彼等は神の光榮よりも人の光榮を好みしなり。 44イエズス呼はりて曰ひけるは、我を信ずる人は、我を信ずるに非ずして、我を遣はし給ひし者を信ずるなり。 45又我を見る人は、我を遣はし給ひし者を見るなり。 46我は光として世に來れり、是總て我を信ずる人が暗に止らざらん爲なり。 47人若我言を聽きて守らざれば、我は之を審かず、我が來りしは世を審かん爲に非ずして、世を救はん爲なればなり。 48我を輕んじて我言を受けざる人には、之を審く者あり、卽ち我が語りし言其物、終の日に於て之を審くべし。 49蓋我は己より語りしに非ず、我を遣はし給ひし父自ら、我が言ふべき事語るべき事を我に命じ給ひしなり、 50我は其命令が永遠の生命たる事を知る、然れば我が語るは、父の我に曰ひし儘に之を語るなり、と。
第13章
1過越の祭日の前、イエズス己が時、卽ち此世より父に移るべき時來れるを知り給ひて、豫ても世に在る己が[弟子]を愛し給ひしが、極まで之を愛し給へり。 2然て晚餐の終つるに臨み、惡魔既にイエズスを付さん事を、シモンの子イスカリオテのユダの心に入れしかば、 3イエズス父より萬事を己が手に賜はりたる事と、己が神より出でて神に至る事とを知り給ひ、 4晚餐より起上りて上衣を脱ぎ、布片を取りて腰に帶び、 5軈て水を銅盤に盛り、弟子等の足を洗ひて、其帶びたる布片もて之を拭ひ始め給へり。 6斯てシモン、ペトロに至り給ふや、ペトロ、主よ、我足を洗ひ給ふか、と云ひしに、 7イエズス答へて、我が爲す所汝今は知らざれども、後には之を知るべし、と曰ひければ、 8ペトロ云ひけるは、我足を洗ひ給ふ事決してあるべからず、と。イエズス我若汝を洗はずば、我と一致する所あらじ、と答へ給ひしかば、 9シモン、ペトロ、主よ、我足のみならず、手をも頭をも、と云ひしが、 10イエズス曰ひけるは、既に身を洗ひたる人は全身潔くして、足の外洗ふを要せず、汝等も潔けれど總てには非ず、と。 11蓋己を付す者の誰なるを知り給ひて、汝等悉く潔きには非ずと曰ひしなり。 12然て彼等の足を洗ひ終りて上衣を取り、復席に着きて彼等に曰ひけるは、我が汝等に爲しし事の何たるを知るや。 13汝等は我を師又は主と呼ぶ、其言ふことや宜し、我は其なればなり。 14然るに主たり師たる我にして汝等の足を洗ひたれば、汝等も亦互に足を洗はざるべからず。 15蓋我汝等に例を示したるは、我が汝等に爲しし如く、汝等にも爲さしめん爲なり。 16誠に實に汝等に告ぐ、僕は其主よりも大いならず、使徒は之を遣はしし者よりも大いならず、 17汝等是等の事を知りて之を行はば福なるべし。 18我は汝等の凡てを指して云ふに非ず、曾て選みたる人々を知れり。然れども聖書に「我と共に麪を食する人我に向ひて其踵を擧げたり」とある事の成就せん爲なり。 19我今事の成るに先ちて汝等に告ぐるは、其成りたらん時、汝等をして我が其なることを信ぜしめん爲なり。 20誠に實に汝等に告ぐ、我が遣はす者を承くる人は我を承け、我を承くる人は我を遣はし給ひしものを承くるなり、と。 21イエズス之を曰ひ終りて御心騷ぎ、證明して、誠に實に汝等に告ぐ、汝等の中一人我を付さんとす、と曰ひければ、 22弟子等、誰を指して曰へるぞと訝りて、互に顏を見合せたりしが、 23イエズスの愛し給へる一人の弟子、御懷の邊りに倚懸り居たるに、 24シモン、ペトロ、腮もて示しつつ、曰へるは誰の事ぞ、と云ひければ、 25彼御胸に倚懸りて、主よ誰なるか、と云ひしかば、 26イエズス答へて曰ひけるは、我が麪を浸して與ふる者卽ち其なり、と。斯て麪を浸して、シモンの子イスカリオテのユダに與へ給ひしに、 27此一片を取るやサタン彼に入れり。然てイエズス之に向ひて、其爲す所を速に爲せ、と曰ひしかど、 28食卓に就けるものは一人として、何の爲に之を曰ひしかを知らず、 29中にはユダが財嚢を持てるによりて、祭日の爲に我等が要する物を買へ、或は貧者に何かを施せ、とイエズスの曰へるならん、と思ふ人々もありき。 30ユダは彼一片を受くるや直に出行きしが、時は既に夜なりき。 31ユダが出でし後、イエズス曰ひけるは、今や人の子光榮を得、神も彼に於て光榮を得給へり、 32神彼に於て光榮を得給ひたれば、神亦己に於て光榮を彼に得させ、而も直に得させ給ふべし。 33小子よ、我は尙暫く汝等と共に在り、汝等將に我を尋ぬべけれども、曾てユデア人に向ひて、我が往く處には汝等來る能はずと言ひし如く、今は汝等にも亦然言ふ。 34我は新しき掟を汝等に與ふ、卽ち汝等相愛すべし、我が汝等を愛せし如く、汝等も相愛すべし、 35汝等相愛せば、人皆之によりて汝等の我弟子たる事を認めん、と。 36シモン、ペトロ、主よ、何處に往き給ふぞ、と云ひしにイエズス答へ給ひけるは、我が往く處に汝今は從ふ能はず、後に從はん、と。 37ペトロ又、我今は汝に從ふ能はざるは何ぞや、我は汝の爲に生命をも棄てんとす、と云ひしかば、 38イエズス之に答へ給ひけるは、汝は我が爲に生命をも棄てんとするか、誠に實に汝に告ぐ、汝が三度我を否む迄は鷄鳴はざるべし。
第14章
1汝等の心騷ぐべからず、神を信ずれば我をも信ぜよ。 2我父の家に住所多し、然らずば我既に汝等に告げしならん、其は至りて汝等の爲に處を備へんとすればなり。 3至りて汝等の爲に處を備へたる後、再び來りて汝等を携へ、我が居る處に汝等をも居らしめん。 4汝等は我が往く處を知り、又其道をも知れり、と。 5トマ云ひけるは、主よ、我等は其往き給ふ處を知らず、爭でか其道を知る事を得ん、と。 6イエズス之に曰ひけるは、我は道なり、眞理なり、生命なり、我に由らずしては父に至る者はあらず。 7汝等若我を知りたらば、必ず我父をも知りたらん、今より汝等之を知らん、而も既に之を見たり、と。 8フィリッポ之に向ひ、主よ、父を我等に示し給へ、然らば我等事足るべし、と云へるを、 9イエズス曰ひけるは、我斯も久しく汝等と共に居れるに、汝等尙我を知らざるか、フィリッポよ、我を見る人は父をも見るなり、何ぞ父を我等に示せと云ふや、 10我父に居り父我に在す、とは汝等信ぜざるか、我が汝等に語る言は己より語るに非ず、父こそ我に在して自ら業を爲し給ふなれ。 11汝等は、我れ父に居り父我に在すと信ぜざるか、 12然らば業其物の爲に信ぜよ。誠に實に汝等に告ぐ、我を信ずる人は自ら亦我が爲す業をも爲し、而も之より大いなる者を爲さん、其は我父の許に之けばなり。 13汝等が我名に由りて(父に)求むる所は、何事も我之を爲さん、是父が子に於て光榮を歸せられ給はん爲なり。 14汝等我名によりて何をか我に求めば、我之を爲さん。 15汝等若我を愛せば我命を守れ、 16而して我は父に請ひ、父は他の弁護者を汝等に賜ひて、永遠に汝等と共に止らしめ給はん。 17是卽ち眞理の靈にして、世は之を見ず且知らざるに由りて、之を承くるに能はず、然れども汝等は之を知らん、其は汝等と共に止りて、汝等の中に居給ふべければなり。 18我汝等を孤兒として遺さじ、將に汝等に來らんとす。 19今暫時にして、世は最早我を見ざるべし、然れど汝等は我を見る、其は我は活き居りて汝等も亦活くべければなり。 20汝等彼日に、我わが父に居り、汝等我に居り、我汝等に居る事を曉らん。 21我命令を有して之を守る者は、是我を愛する者なり、我を愛する者は我父に愛せらるべく、我も之を愛して之に己を顯すべし、と。 22彼イスカリオテに非ざるユダ、イエズスに謂ひけるは、主よ何爲ぞ、己を我等に顯して世に顯し給はざるや。 23イエズス答へて曰ひけるは、人若我を愛せば、我言を守らん、斯て我父は彼を愛し給ひ、我等彼に至りて其内に住まん、 24我を愛せざる者は我言を守らず、而して汝等の聞きしは我言に非ずして、我を遣し給ひし父のなり。 25我尙汝等と共に居りて是等の事を汝等に語りしが、 26父の我名に由りて遣はし給ふべき弁護者たる聖靈は、我が汝等に謂ひし總ての事を敎へ、且思出でしめ給ふべし。 27我は平安を汝等に遺し、我平安を汝等に與ふ、我が之を與ふるは、世の與ふる如くには非ず、汝等の心騷ぐべからず、又怖るべからず、 28曾て我往きて復汝等に來らんとと云ひしは、汝等が聞ける所なり、汝等我を愛するならば、必ず我が父の許に歸るを喜ぶならん、父は我より更に大いに在せばなり。 29今事の成るに先だちて我が汝等に告げたるは、其成りて後汝等に信ぜしめん爲なり。 30最早多く汝等に語らじ、蓋此世の長來る、彼は我に何の權をも有せず。 31然れど我が父を愛して父の我に命じ給ひし如く行ふ事を世の知らん爲に、立て、將此處より去らん。
第15章
1我は眞の葡萄樹にして、我父は栽培者なり、 2我に在る枝の果を結ばざる者は、父悉く之を伐去り、果を結ぶ者は、尙多く果を結ばしめん爲に、悉く之を切透かし給ふべし。 3我が汝等に語りたる言に由りて汝等は既に潔きなり。 4我に止れ、我も亦汝等に止るべし。枝が葡萄樹に止るに非ずば自ら果を結ぶこと能はざる如く、汝等も我に止るに非ずば能はじ。 5我は葡萄樹にして汝等は枝なり、我に止り我が之に止る人、是多くの果を結ぶ者なり、蓋我を離れては、汝等何事をも爲す能はず。 6人若我に止らずば枝の如く棄てられて枯れ、然て拾はれ、火に投入れられて焚けん。 7汝等若我に止り、我言汝等に止らば、欲する所を願はんに叶へらるべし。 8我父の據りて以て光榮を得給ふは、汝等が夥しき果を結びて我弟子と成らん事是なり。 9父の我を愛し給へる如く、我も亦汝等を愛せり、汝等我愛に止れ。 10若我命を守らば汝等我愛に止る事、我も我父の命を守りて其愛に止るが如くなるべし。 11是等の事を汝等に語れるは、我喜汝等の衷に在りて、汝等が喜の全うせられん爲なり。 12汝等相愛すること、我が汝等を愛せしが如くせよ、是我命なり。 13誰も其友の爲に生命を棄つるより大いなる愛を有てる者はあらず。 14汝等若我が命ずる所を行はば是我友なり。 15我最早汝等を僕と呼ばじ、僕は其主の爲す所を知らざればなり。然て我は汝等を友と呼べり、是總て我父より聞きし事を悉く汝等に知らせたればなり。 16汝等が我を選みたるに非ず、我こそ汝等を選みて立てたるなれ、是汝等が往きて果を結び其果永く存して、我名によりて父に何事を願ふも、父が汝等に之を賜はん爲なり。 17我が斯く汝等に命ずるは、汝等が相愛せん爲なり。 18世若汝等を憎まば、汝等より先に我を憎めりと知れ。 19汝等世のものなりしならば、世は己がものとして愛せしならん、然れども、世のものに非ずして、我が世より選出せる汝等なれば、世は汝等を憎むなり。 20僕は其主より大いならず、と我が曾て汝等に語りしを記憶せよ、人我を迫害したれば、亦汝等をも迫害せん、我言を守りたれば、亦汝等の言をも守らん、 21然れども此凡ての事は、彼等我名の爲に之を汝等に爲さん、是我を遣はし給ひし者を知らざる故なり。 22若我が來りて彼等に告ぐる事なかりせば、彼等罪なかりしならん。然れど今は其罪を推*くるに所なし。 23我を憎む人は我父をも憎むなり、 24若我彼等の中に在りて、何人も曾て爲さざりし業を行はざりせば、彼等罪なかりしならん。然れど今は現に之を眼前に見て而も我と我父とを憎みたるなり。 25但し是彼等の律法に錄して「彼等謂なく我を憎めり」とある言の成就せん爲なり。 26斯て父の許より我が遣はさんとする弁護者、卽ち父より出づる眞理の靈來らば、我に就きて證明を爲し給はん、 27汝等も初より我に伴へるに由りて亦證明を爲さん。
第16章
1我が斯く汝等に語りしは、汝等の躓かざらん爲なり。 2人々汝等を會堂より逐出さん、而も汝等を殺す人凡て自ら神に盡すと思ふ時來らん。 3人の斯る事を汝等に爲さんとするは、父をも我をも知らざる故なり。 4但し我が斯く汝等に語りたるは、時至らば汝等をして、我が之を告げたるを思出でしめんが爲なり。 5而も之を初より告げざりしは、汝等と共に居りし故なり、今我を遣はし給ひし者に至らんとするに、何處に至るぞと我に問ふ者、汝等の中に一人もあらず、 6然れど斯く語りしに因りて、憂汝等の心に滿てり。 7然りながら我實を以て汝等に告ぐ、我が去るは汝等に利あり、我若去らずば弁護者は汝等に來るまじきを、去りなば我之を汝等に遣はすべければなり。 8彼來らば世を責めて、罪と義と審判とに就きて其過を認めしめん。 9罪に就きてとは、人々我を信ぜざりし故なり。 10義に就きてとは、我父の許に去りて汝等最早我を見ざるべき故なり。 11審判に就きてとは、此世の長既に審判せられたる故なり。 12我が汝等に云ふべき事尙多けれども、汝等今は之に得堪へず。 13彼眞理の靈來らん時、一切の眞理を汝等に敎へ給はん。其は己より語るに非ずして、悉く其聞きたらん所を語り、又起るべき事を汝等に告げ給ふべければなり。 14彼は我に光榮あらしむべし、其は我がものを受取りて汝等に示し給ふべければなり。 15凡て父の有し給ふものは悉く我ものなり、彼は我ものを受取りて汝等に示し給はんと云へるは、之を以てなり。 16暫くにして汝等最早我を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、是我父に至ればなり、[と曰へり]。 17是に於て弟子の或人々、暫くにして汝等我を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、又我父に至ればなり、と曰へるは何事ぞ、と語合ひつつ、 18然て、暫くにしてと曰へるは何ぞや、我等は其語り給ふ所を知らず、と云ひ居りしに、 19イエズス彼等が己に問はんと欲するを曉りて曰ひけるは、汝等は、暫くにして汝等を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、と我が云へるを僉議し合へるか、 20誠に實に汝等に告ぐ、汝等は悲しみ且泣かんに世は喜ぶべく、汝等は憂ふべけれども、其憂は變りて喜となるべし。 21婦の産まんとするや、我時期來れりとて憂ふれども、既に子を産み了れば、世に人一人生れたる喜によりて、最早苦痛を覺ゆる事なし。 22汝等も今は憂を懷けども、我再び汝等を見ば、汝等の心は喜ぶべく、而も其喜を汝等より奪ふ者なかるべし。 23彼日には、汝等何事をも我に問はざらん。誠に實に汝等に告ぐ、汝等もし我名によりて父に求むる所あらば、父は之を汝等に賜ふべし。 24汝等今までは、我名によりて何をも求めざりしが、求めよ、然らば受け得て汝等の喜全かるべし。 25我喩を以て斯く汝等に語りしかど、最早喩を以て語らずして明白に父に就きて汝等に告ぐべき時は來る、 26其日には汝等我名によりて求めん、而も我汝等の爲に父に祈らんとは云はず、 27其は汝等我を愛して、我が神より出でたるを信じたるが故に、父自ら汝等を愛し給へばなり。 28我は父より出でて世に來りしが、復世を離れて父に至る、と曰ひしかば、 29弟子等云ひけるは、今は明白に語り給ひて豪も喩を語り給はず。 30今にして我等は、汝が萬事を知り給ひて、人の問ふを待ち給はざる事を知り、是によりて汝の神より出で給へる事を信ず、と。 31イエズス彼等に答へ給ひけるは、汝等は今信ずるか、 32看よ時は來る、最早來れり、汝等は何れも己がじし散亂れて我を獨り棄置くに至らん。然れど我は獨に非ず、其は父我と共に在せばなり。 33斯く汝等に語りたるは、汝等が我に於て平安を得ん爲なり。世に於ては汝等難に遇はん、然れど賴もしかれ、我は世に勝てり、と。
第17章
1イエズス斯く語り果てて、目を翹げ天を仰ぎて曰ひけるは、父よ時來れり、御子をして汝に光榮あらしめん爲に、御子に光榮あらしめ給へ、 2其は父より賜はりし人々に永遠の生命を與へしめんとて、之に萬民の上に權能を賜ひたればなり。 3抑永遠の生命は、唯一の眞の神にて在す汝と、其遣はし給へるイエズス、キリストとを知るに在り。 4我は地上にて汝に光榮あらしめ、我に爲さしめんとて賜ひし業を全うせり。 5父よ、世界の存在に前だちて我が汝と共に有せし光榮を以て、今汝と共に我に光榮あらしめ給へ。 6我は、此世より選みて我に賜ひし人々に御名を顯せり。彼等汝のものたりしに之を我に賜ひ、彼等は汝の言を守り、 7我に賜ひし事悉く汝より出づることを今にして曉れり。 8蓋我に賜ひし言を我彼等に授け、彼等は之を受けて、深く我が汝より出でたるを曉り、汝の我に遣はし給ひしことを信ぜり。 9我彼等の爲に祈る。我が祈るは世の爲に非ずして、我に賜ひたる人々の爲なり、彼等は汝のものなればなり。 10我ものは悉く汝のもの、汝のものは我ものにして、我彼等の中に光榮を得たり。 11我最早世に居らず、彼等は世に居り、我は汝に至る。聖なる父よ、我に賜ひたる人々を御名を以て護り給へ、是我等の如く彼等も一ならん爲なり。 12我彼等と共なりし間、御名を以て彼等を護り居たりしが、我に賜ひたる人々を保ち、其中の一人も失せず、唯聖書の成就せん爲に、亡の子の失せたるのみ。 13今は我汝に至る、世に在りて斯く語るは、我喜を彼等の身に圓滿ならしめんが爲なり。 14我は御言を彼等に授け、世は彼等を憎めり、是は我も世のものに非ざる如く、彼等は世のものに非ざればなり。 15我が祈るは彼等を世より取去り給へとには非ず、彼等を護りて惡を逃れしめ給へとなり。 16我も世のものに非ざる如く、彼等は世のものに非ず、 17願くは彼等を眞理の中に聖ならしめ給へ、御言は卽ち眞理なり、 18我を世に遣はし給ひし如く、我も彼等を世に遣はせり、 19且彼等をも眞理の中に聖ならしめんとして、彼等の爲に己を聖ならしむ。 20我が祈るは彼等の爲のみならず、又彼等の言によりて我を信ずる人々の爲にして、 21彼等が悉く一ならん爲なり。父よ、是汝の我に在し我が汝に居るが如く、彼等も我等に居りて一ならん爲にして、汝の我を遣はし給ひし事を世に信ぜしめんとてなり。 22我に賜ひし光榮を我彼等に與へたり、是は我等の一なるが如く、彼等も一ならん爲なり。 23我彼等に居り汝我に在す、是は彼等が一に全うせられん爲、又汝の我を遣はし給ひし事と、我を愛し給ひし如く彼等をも愛し給ひし事とを、世の曉らん爲なり。 24父よ、願くは我に賜ひし人々も、我が居る處に我と共ならん事を、是世界開闢以前より我を愛し給ひて我に賜ひたる我光榮を、彼等に見せん爲なり。 25正しき父よ、世は汝を知らざれども我は汝を知り、彼等も亦汝の我を遣はし給ひしことを知れり。 26我は御名を彼等に知らせたり、又知らせんとす、是我を愛し給ひたる愛の彼等に存して、我も彼等に居らん爲なり、[と曰へり]。
第18章
1イエズス斯く曰ひて、弟子等と共にセドロンの溪流の彼方に出で給ひしが、其處に園の在りけるに、弟子等を伴ひて入り給へり。 2イエズス屡弟子と共に此處に集り給ひければ、彼を賣れるユダも處を知り居たり。 3然ればユダは、一隊の兵卒及び下役等を大司祭ファリザイ人より受けて、提燈と炬火と武器とを持ちて此處に來れり。 4イエズス我が身に來るべき事を悉く知り給ひて、進出でて彼等に向ひ、誰を尋ぬるぞ、と曰ひしかば彼等、ナザレトのイエズスを、と答へしに、 5イエズス、其は我なり、と曰ひしが、彼を付せるユダも彼等と共に立ち居たり。 6然てイエズスが我なりと曰ふや、彼等後退して地に倒れたり。 7イエズス乃ち復、汝等誰を尋ぬるぞ、と問ひ給ひしに彼等、ナザレトのイエズスを、云ひたれば、 8イエズス答へ給ひけるは、我既に我なりと汝等に告げたり、我を尋ぬるならば、此人々を容して去らしめよ、と。 9是曾て、我に賜ひたる人々を我一人も失はざりき、と曰ひし御言の成就せん爲なり。 10時にシモン、ペトロ剣を持ちたりしかば、拔きて大司祭の僕を擊ち、其右の耳を切落ししが、其僕の名をマルクスと云へり。 11然てイエズスペトロに曰ひけるは、汝の剣を鞘に收めよ、父の我に賜ひたる杯は我之を飲まざらんや、と。 12斯て兵隊、千夫長、及びユデア人の下役等、イエズスを捕へて之を縛り、 13先アンナの許に引行けり、是其年の大司祭たるカイファの舅なるが故にして。 14カイファは曾てユデア人に向ひて、一人が人民の爲に死するは利なり、との忠告を與へたりし人なり。 15然るにシモン、ペトロ及び他の一人の弟子、イエズスの後に從ひたりしが、彼弟子は曾て大司祭に知られたりければ、イエズスと共に大司祭の庭に入りしも、 16ペトロは門の外に立ちてありしに、彼大司祭に知られたりし弟子出でて門番の婦に語らいしかば、ペトロを内に入れたり。 17斯て門番の婦ペトロに向ひ、汝も彼人の弟子の一人ならずや、と云ひしに彼、然らずと云へり。 18時しも寒かりければ、僕及び下役等、炭火の傍に立ちて煬り居るに、ペトロも立交りて煬り居れり。 19然て大司祭は其弟子と敎とに就きてイエズスに問ひしかば、 20イエズス之に答へ給ひけるは、我は白地に世に語り、何時も凡てのユデア人の相集まる會堂及び[神]殿にて敎へ、何事をも密に語りし事なし、 21汝何ぞ我に問ふや、我が語りし所を聽聞したる人々に問へ、彼等こそ我が言ひし所を知るなれ、と。 22斯く曰ひしかば、立合へる一人の下役、手にてイエズスの頰を打ち、汝大司祭に答ふるに斯の如きか、と云ひしを、 23イエズス答へ給ひけるは、我が言ひし事惡くば其惡き所以を證せよ、若善くば何爲ぞ我を打つや、と。 24斯てアンナはイエズスを縛りたる儘に、大司祭カイファの許に送りたりき。 25然てシモン、ペトロ火に煬りつつ立てるに、人々、汝も彼が弟子の一人ならずや、と云ひしかばペトロ否みて、然らずと云へり。 26又一人、大司祭の僕にしてペトロに耳を切落とされし人の親族なる者、我汝が園にて彼に伴へるを見たるに非ずや、と云ふを、 27ペトロ又否みたるに、鷄忽ち鳴へり。 28斯て人々、イエズスをカイファの許より官廰に引きしが、時は天明なりき。彼等は汚れずして過越の犧牲を食し得ん爲に、其身は官廰に入らざりしかば、 29ピラト彼等の居る所に出でて、汝等彼人に對して如何なる事を告訴するぞ、と云ひしに、 30彼等答へて、彼若惡人ならずば我等之を汝に付さざりしならん、と云ひければ、 31ピラト彼等に向ひ、汝等之を引受けて汝等が律法の儘に審け、と云ひしにユデア人、我等は人を殺す事を允されず、と云へり。 32是イエズスが曾て、如何なる死狀を以て死すべきかを、示して曰ひし御言の成就せん爲なりき。 33是に於てピラト再び官廰に入り、イエズスを呼出して、汝はユデア人の王なるか、と云ひしに、 34イエズス答へ給ひけるは、汝之を己より云へるか、又人我に就きて汝に告げたるか。 35ピラト答へけるは、我豈ユデア人ならんや、汝の國民と大司祭等と汝を我に付したるが、汝何を爲したるぞ。 36イエズス答へ給ひけるは、我國は此世のものに非ず、若我國此世のものならば、我をユデア人に付されじとて、我臣僕は必ず戰ふならん、然れど今我國は茲のものならず、と。 37斯てピラトイエズスに向ひ、然らば汝は王なるか、と云ひしにイエズス答へたまいけるは、汝の云へる[が如し、]我は王なり、我之が爲に生れ、之が爲に世に來れり。卽ち眞理に證明を與へん爲なり、總て眞理に據れる人は我聲を聽く、と。 38ピラトイエズスに謂ひけるは、眞理とは何ぞや、と。斯く云ひて再びユデア人の所に出行き、彼等に云ひけるは、我彼人に何の罪をも見出さず、 39但し過越祭に當りて、我汝等に一人を赦すは汝等の慣例なるが、然らばユデア人の王を我より赦されん事を欲するか、と。 40是に於て彼等復一同に叫びて、其人ならでバラバを、と云へり、バラバは卽ち强盜なりき。
第19章
1其時ピラトイエズスを捕へて之を鞭ち、 2兵卒等は茨の冠を編みて御頭に冠らせ、又赤き上衣を着せ、 3然て御前に至りて、ユデア人の王よ、安かれ、と云ひて手を以て御頰を打ち居たり。 4斯てピラト復出來り、人々に向ひて言ひけるは、我が何の罪をも彼に見出さざる事を汝等に知らしめん爲に、看よ彼を汝等の前に引出すぞ、と。 5此に於てイエズス、茨の冠赤き上衣にて出來り給ひしかば、ピラト、看よ人を、と云ひしに、 6大司祭及び下役等イエズスを見るや叫出でて、十字架に釘けよ、十字架に釘けよ、と云ひければピラト、汝等自ら之を執りて十字架に釘けよ、我は何の罪をも之に見出さざるを、と云ひしに、 7ユデア人答へけるは、我等に律法あり、其律法によりて彼は死せざるべからず、其は、己を神の子としたればなり、と。 8ピラト此言を聞きて、益懼れ、 9復官廰に入りてイエズスに向ひ、汝は何處の者ぞ、と云ひしかど、イエズス答へ給はざれば、 10ピラト云ひけるは、汝我に言はざるか、汝を十字架に釘くるの權も、亦免すの權も、我に在る事を知らざるか、と。 11イエズス答へ給ひけるは、汝上より與へられたるに非ずば、我に對して何らの權あらんや。我を汝に付したる者の罪、是に於てか更に大いなり、と。 12是よりピラト復イエズスを免さんと謀り居たれども、ユデア人叫びて、汝若此人を免さばセザルの忠友に非ず、凡て己を王とする人はセザルに叛く者なればなり、と云ひければ、 13ピラト斯る言を聞きてイエズスを伴出し、切嵌の敷石、ヘブレオ語にてはガパタと云へる處にて、審判席に就けり。 14恰も過越祭の用意日にして、十二時頃なりしが、ピラトユデア人に向ひ、看よ汝等の王を、と云ひしに、 15彼等、取除けよ、取除けよ、十字架に釘けよ、と叫び居ければピラト彼等に、我豈汝等の王を十字架に釘けんや、と云へるを大司祭等、セザルの外我等に王なし、と答へたり。 16斯てピラト、十字架に釘くる爲にイエズスを彼等に付しければ、兵卒等之を取りて引出ししが、 17イエズス自ら十字架を負ひ、彼髑髏、ヘブレオ語にてゴルゴタと云へる處に出で給へり。 18彼等此處にて之を十字架に釘け、又別に二人を左右に、イエズスをば中央にして磔けたり。 19然るにピラト亦罪標を書きて十字架の上に置きしが、ユデア人の王ナザレトのイエズスと記されたりき。 20イエズスの十字架に釘けられ給ひし處は市街に近くして、罪標はヘブレオとギリシアとラテンとの語にて書きたれば、ユデア人の中に之を讀みたる者多し。 21然ればユデア人の大司祭等ピラトに向ひ、ユデア人の王と書かずして、ユデア人の王と自稱せし者と書き給へ、と云ひしをピラトは、 22我が書きし所は書きし[儘なれ、]と答へたり。 23斯て兵卒等、イエズスを十字架に釘けし後、其衣服と下衣とを受け、衣服は四分して一人に一分づつ分ちしが、下衣は上より一つに織りたる縫目なき物なりしかば、 24之を裂かずして、誰のになるべきか鬮引にせんと言合へり。是聖書に錄して「彼等は互に我が衣服を分ち、我下衣を鬮引にせり」とある事の成就せん爲にして、卽ち兵卒等は實に此事を爲せるなり。 25然てイエズスの十字架の傍に、其母と母の姉妹、卽ちクレオファの[妻]マリアと、マグダレナ、マリアと立ちてありしが、 26イエズス其母と愛せる弟子との立てるを見給ひて母に向ひ、婦人よ、是汝の子なり、と曰ひ、 27次に弟子に向ひて、是汝の母なり、と曰ひければ、此時より其弟子イエズスの母を我家に引取りたり。 28軈てイエズス何事も成り終れるを知り給ひて、聖書の成就し果てん爲に、我渴くと曰ひしが、 29其處に醋の滿ちたる器置かれてありしに、兵卒等海綿を醋に浸し、イソプに刺して其口に差付けしかば、 30イエズス醋を受け給ひて、成り終れりと曰ひ、首を垂れて息絕え給へり。 31時は用意日にて大安息日の前なれば、安息日に屍の十字架上に遺らざらん爲に、其脛を折りて取下さん事を、ユデア人ピラトに願ひしかば、 32兵卒等來りて、先なる者及び共に十字架に釘けられたる他の一人の脛を折りしが、 33イエズスに至り、其既に死し給へるを見て脛を折らざりき。 34然れど兵卒の一人鎗もて其脇を披きしかば、直に血と水と流出でたり。 35目擊せし人之を證明せしが、其證明は眞實にして、彼は其云ふ所の眞實なるを知れり、是汝等にも信ぜしめん爲なり。 36是等の事の成りしは、聖書に「汝等其骨の一も折るべからず」とある事の成就せん爲なり。 37更に又聖書に曰く「彼等は其貫けるものを仰ぎ見ん」と。 38其後アリマテアのヨゼフ、ユデア人を憚りて密にはすれども、イエズスの弟子なれば、其御屍を引取らん事をピラトに願ひしに、ピラト許ししかば來りてイエズスの御屍を取下せり。 39又嚮に夜イエズスに至りしニコデモも、没藥と蘆薈との混合物を百斤許携へて來りしが、 40兩人イエズスの御屍を受取り、ユデア人の葬の習慣に從ひて香料と共に布にて之を捲けり。 41然てイエズスの十字架に釘けられ給ひし處に園ありて、園の中に未だ誰をも葬らざる墓ありければ、 42彼等はユデア人の用意日なるに因り、墓の手近きに任せて、イエズスを其處に斂めたり。
第20章
1週の第一日、マグダレナ、マリア朝爽に墓に往き、墓より石の取除けられたるを見しかば、 2走りてシモン、ペトロ及びイエズスの愛し居給ひし今一人の弟子の許に至り、主を墓より取去りたる人あり、何處に置きたるか我等は之を知らず、と云ひければ、 3ペトロと彼一人の弟子出でて墓に往けり。 4二人共に走り居りしが、彼一人の弟子ペトロに走勝ちて先墓に着き、 5身を屈めて、布の橫はれるを見しも、未だ内に入らざる程に、 6シモン、ペトロ後より來り、墓に入りて見れば布は橫はりて、 7頭を覆ひたりし汗拭は布と共に置かれずして、卷きて別の處に在りき。 8其時先墓に着きし彼一人の弟子も内に入り、見て信じたり。 9其は彼等未だ、イエズスが死者の中より復活し給ふべし、との聖書を知らざりければなり。 10斯て兩人の弟子は己が家に歸れり。 11然れどマリアは墓の外に立ちて泣き居りしが、泣きつつ身を屈めて墓を覗きしに、 12白衣を着たる二の天使、イエズスの御屍の置かれたりし處に、一は頭の方に、一は足の方に坐せるを見たり。 13彼等マリアに向ひ、婦よ、何故に泣くぞ、と云ひしかば、マリア云ひけるは、我主を取去りたる人ありて、何處に置きたるか我之を知らざる故なり、と。 14斯く言終りて後を回顧りしに、イエズスの立ち給へるを見たり。然れど其イエズスなる事を知らざりしが、 15イエズス之に、婦よ、何故に泣くぞ、誰を尋ぬるぞ、と曰ひしかば、マリア園丁ならんと思ひて之に謂ひけるは、君よ、若汝が彼を取去りしならば、其置きたる處を我に告げよ、我之を引取るべし、と。 16イエズス、マリアよ、と曰ひければ彼回顧りて、ラボニ、卽ち師よ、と云へり。 17イエズスこれに向ひ、我未だ我父に陟らざれば我に觸るる事勿れ、但先わが兄弟等に至りて、我は汝等の父なる我父、汝等の神なる我神に陟ると云へ、と曰ひければ、 18マグダレナ、マリア往きて、我主を見たり、我に云々曰へり、と弟子等に告げたり。 19斯て其日、卽ち週の第一日既に暮れて、弟子等ユデア人の怖しさに戶を閉ぢて集れる處に、イエズス來りて其中に立ち曰ひけるは、汝等安かれ、と。斯く曰ひて、 20手と脇とを彼等に示し給ひければ、弟子等主を見て喜べり。 21イエズス復曰ひけるは、汝等安かれ、父の我を遣はし給ひし如く、我も汝等を遣すなり、と。 22斯く曰ひて、息吹掛けて曰ひけるは、聖靈を受けよ、 23汝等誰の罪を赦さんも其罪赦されん、誰の罪を止めんも其罪止められたるなりと。 24然るに十二人の一人にしてチヂモと呼ばるるトマは、イエズスの來り給ひし時彼等と共に居らざりしかば、 25他の弟子等之に向ひ、我等は主を見たり、と云ひしに、彼云ひけるは、我は其手に釘の痕を見て、其釘の處に我指を入れ、其脇に我手を入るるに非ずば信ぜじ、と。 26八日の後、弟子等復内にありてトマも共に居りしが、戶は閉ぢたるにイエズス來りて眞中に立ち給ひ、汝等安かれ、と曰ひて、 27軈てトマに曰ひけるは、汝指を茲に入れて我手を見よ、手を伸べて我脇に入れよ、不信者とならずして信者となれ、と。 28トマ答へて、我主よ、我神よ、と云ひしかば、 29イエズス之に曰ひけるは、トマ汝は我を見しによりて信じたるが、見ずして信ぜし人々こそ福なれ、と。 30此外にも尙數多の徵を、イエズス弟子等の眼前に爲し給ひしかど本書には書載せず。 31是等の事を書載せられたるは、汝等がイエズスの神の御子キリストたる事を信ぜん爲、信じて御名によりて生命を得ん爲なり。
第21章
1其後イエズス、又チベリアデの湖邊にて己を弟子等に現し給ひしが、其現し給ひし次第は次の如し。 2シモン、ペトロとチヂモと呼ばるるトマと、ガリレアのカナ生れなるナタナエルと、ゼベデオの子等と、尙外に二人の弟子共に在りけるに、 3シモン、ペトロ、我漁に往く、と云ひしかば彼等、我等も共に往く、と云ひて、皆出行きて船に乘りしに、其夜は何をも獲ざりき。 4然て天明に至りてイエズス濱に立ち給へり、然りながら弟子等は其イエズスなる事を認めざれば、 5イエズス彼等に向ひ、子等よ肴あるか、と曰ひしに彼等、無しと答へたり。 6イエズス、網を船の右に下せ、然らば獲物あらん、と曰ひければ、彼等下したるに、魚夥しくして、網を引くこと能はざれば、 7イエズスの愛し給へる彼弟子ペトロに向ひて、主なり、と云ひしをシモン、ペトロ、主なりと聞くや、裸なりければ上衣を纏ひて湖に飛入り、 8他の弟子等は魚の滿てる網を引きつつ船にて來れり、陸を距る事遠からず、凡そ五十間許なりければなり。 9陸に上りて見れば既に炭火ありて、其上に一の魚の乘せられたるあり、又麪ありき。 10イエズス彼等に向ひ、汝等が今獲りたる魚を持來れと曰ひしかば、 11シモン、ペトロ乘りて、大なる魚百五十三尾まで充滿たる網を陸に引來りしが、斯くまで夥しかりしかど網は裂けざりき。 12イエズス彼等に、來りて食せよ、と曰ひしに、弟子等其主なることを知りて、汝は誰ぞと敢て問ふ者一人もなかりしが、 13イエズス近づき給ひ、麪を取りて彼等に與へ、魚も亦同じ樣にし給へり。 14イエズスが死者の中より復活して、其弟子等に現れ給ひしは是にて既に三度目なりき。 15然て彼等食したるに、イエズスシモン、ペトロに曰ひけるは、ヨハネの[子]シモン、汝は此人々に優りて我を愛するか、と。彼、主よ、然り、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしかばイエズス、我羔を牧せよ、と曰へり。 16又再び、ヨハネの[子]シモン、汝は我を愛するか、と曰ひしに、彼、主よ、然り、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしかばイエズス我羔を牧せよ、と曰へり。 17三度之に向ひて、ヨハネの[子]シモン、汝は我を愛するか、と曰ひしかば、ペトロは、我を愛するかと三度まで言はれたるを憂ひしが、主よ、萬事を知り給へり、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしに、イエズス之に曰ひけるは、我羊を牧せよ。 18誠に實に汝に告ぐ、汝若かりし時、自ら帶して好む處を步み居たりしが、老いたらん後は手を伸べん、而して他の者汝に帶して、其好まざる處に導かん、と。 19是ペトロが如何なる死を遂げて神に光榮あらしむべきかを示して曰ひしなり。然て之を曰ひ果てて、我に從へ、とペトロが曰ひしが、 20ペトロ回顧りてイエズスの愛し居給ひし彼弟子、卽ち晚餐の時イエズスの御胸に橫はりて、主よ汝を付す者は誰なるぞ、と云ひし弟子の從へるを見たり。 21ペトロ之を見てイエズスに向ひ、主よ、彼は如何に、と云ひしに、 22イエズスペトロに曰ひけるは、我が來るまでに彼の留らん事を命ずとも、汝に於て何かあらん、汝は我に從へ、と。 23然れば彼弟子死せずとの說兄弟等の中に傳はりしが、彼死せず、とイエズスのペトロに曰ひしには非ず、唯我が來るまで彼の留らん事を命ずとも、汝に於て何かあらん、と曰ひしのみ。 24此等の事に就きて證明し、此等の事を書きし人は、卽ち彼弟子にして、我等は其證明の眞實なる事を知る。 25然れどイエズスの爲し給ひし事尙此他にも夥しく、若之を一々書記さば、我思ふに書記すべき書籍は、世界すらも載盡すこと能はざるべし。
出典:ラゲ訳『我主イエズスキリストの新約聖書』(公教会、1910年)。訳者エミール・ラゲ(1854–1929)。日本・米国ともにパブリックドメイン。本文はウィキソース「ヨハネ聖福音書1・2 (ラゲ訳)」より、文言を変えずに掲載しています(ふりがなはウィキソース収録のもの)。